パナソニックとGO ONのコラボレーションで、
ミラノサローネへの出展を依頼される

 例えば、中川木工芸の木桶に、小さなステンレスの玉がたくさん入っているもの。一見何の変哲もない木桶のようですが、ステンレスの玉が非接触でIH(電磁誘導加熱)の媒介になることを生かした、ワインクーラーになっています。

 あるいは、とっくりの底に金属板を仕込んでおいて、距離で熱せられる度合いが変わり、熱燗(あつかん)から温燗(ぬるかん)まで温度が違うお酒が並ぶといったものもありました。

 開化堂の茶筒を使った、開けると音が鳴るスピーカーもありました。

 朝日焼で面白かったのは、もともと朝日焼が装飾に使っていた銀の釉薬(ゆうやく)が、非接触のIHの媒介になることがわかったのです。そのことを生かして、銀の釉薬がかかっている器をつくりました。何の変哲もない器だけれども、そこに水を注いでいくと、IHで熱せられてお湯に変わっていく。

 何かを変えたわけではありません。朝日焼がもともと使ってきた釉薬を、テクノロジーと掛け合わせて使っていく。

 西陣の箔もそうです。もともとの素材が通電性が高いことがわかったので、それを使って、織物を触ると音が出るというスピーカーを開発しました。

 それらのものを、町家でプレゼンテーションしたのです。どれもコンセプト的な制作物なので、コストを考えれば売り物にはなりません。多様性を表現するために、約三〇の成果物をつくりました。

 期間限定のプロジェクトということもあり、私たちとしては、この展示を行なって終わりというつもりでした。けれど、そこでGO ONに白羽の矢が立ったのです。

 パナソニックの当時の役員の方が、この展示を見て非常に気に入られて、毎年何億円とかけてパナソニックが出展していたミラノサローネに、パナソニックとGO ONのコラボレーションで出展してほしいということになったのです。

細尾真孝(Masataka Hosoo)
株式会社細尾 代表取締役社長
MITメディアラボ ディレクターズフェロー、一般社団法人GO ON 代表理事
株式会社ポーラ・オルビス ホールディングス 外部技術顧問
1978年生まれ。1688年から続く西陣織の老舗、細尾12代目。大学卒業後、音楽活動を経て、大手ジュエリーメーカーに入社。退社後、フィレンツェに留学。2008年に細尾入社。西陣織の技術を活用した革新的なテキスタイルを海外に向けて展開。ディオール、シャネル、エルメス、カルティエの店舗やザ・リッツ・カールトンなどの5つ星ホテルに供給するなど、唯一無二のアートテキスタイルとして、世界のトップメゾンから高い支持を受けている。また、デヴィッド・リンチやテレジータ・フェルナンデスらアーティストとのコラボレーションも積極的に行う2012年より京都の伝統工芸を担う同世代の後継者によるプロジェクト「GO ON」を結成。国内外で伝統工芸を広める活動を行う。2019年ハーバード・ビジネス・パブリッシング「Innovating Tradition at Hosoo」のケーススタディーとして掲載。2020年「The New York Times」にて特集。テレビ東京系「ワールドビジネスサテライト」「ガイアの夜明け」でも紹介。日経ビジネス「2014年日本の主役100人」、WWD「ネクストリーダー 2019」選出。Milano Design Award2017 ベストストーリーテリング賞(イタリア)、iF Design Award 2021(ドイツ)、Red Dot Design Award 2021(ドイツ)受賞。9月15日に初の著書『日本の美意識で世界初に挑む』を上梓。