近年、導入の是非が議論となっている「選択的夫婦別姓」。じつは、日本の歴史のなかで「夫婦同姓」は比較的新しい常識だ。源頼朝の妻が北条政子であるように、夫婦が別の姓を名乗るのが当たり前だった。それ以前に、庶民は名字を名乗ることもなかった。
東京大学史料編纂所教授の本郷和人氏が監修する『東大教授がおしえる やばい日本史』『東大教授がおしえる さらに!やばい日本史』では、このような現在の価値観からすると「びっくり」な話を多数紹介している。今回の記事では、本郷氏に「昔のびっくり常識」ベスト3をセレクトしてもらった。(取材・構成/小川晶子、写真/梅沢香織)

びっくり常識1:死体がゴロゴロしている

――本郷先生は「歴史を学ぶとき、現代の価値観で考えようとするとわからない場合が多い」とおっしゃっていますよね。現代の価値観と昔の価値観では大きく違うものがたくさんあるのだと思います。たとえば、死者に対する考え方も違いますよね。

本郷和人氏(以下、本郷):違います。たとえば現代では、人が亡くなったらお葬式をして火葬をし、お墓に入れる……というのが常識ですよね。でも、平安時代以前では、遺体は捨て置かれるのが普通でした。

――えっ! お墓はなかったのですか?

本郷:お墓自体は古くからありました。たとえば「古墳」は権力者のお墓です。しかし、現代のように庶民がお墓を立てるようになるのは江戸時代からです。平安時代、高貴な人はモニュメントとしての墓はあっても、遺体は決まったエリアに埋めるだけ。貴族の藤原氏でさえ、自分のお父さんがどこに埋まっているか、詳しい場所はよくわからなかったと思います。

――驚きです。庶民はどうしていたんでしょうか。

本郷:庶民は貧しいから、死体を処理することさえできません。そもそも、家がない人だってたくさんいましたから。死体は捨てて、それで終わりです。糞尿や死体の処理ができていないので、病気も蔓延していました。平清盛の最初の奥さんは情け深い人だったらしく、道で出会った病人に救いの手を差し伸べて病気がうつり、亡くなったと言われています。

――芥川龍之介の「羅生門」には、死体がゴロゴロ転がっている中に老婆がいる描写がありました。これは、亡くなった人が羅生門に捨てられていたということなのでしょうか。

本郷:そうです。「羅生門」は「今昔物語」を題材にしており、舞台設定は平安時代末期の平安京です。引き取り手のない死体がそこに捨てられていたのです。

東大教授が教える「昔のびっくり常識」ベスト3

びっくり常識2:武将がイケメンにメロメロ

――『やばい日本史』の中に、「戦は強いがイケメンにはめっぽう弱い」武田信玄が紹介されていて面白かったです。戦国時代、男同士の恋愛がかっこいい感覚だったというのは驚きです。

本郷:織田信長にも伊達政宗にもふつうに男の恋人がいましたからね。信玄がもっとも愛したと言われるのは春日源助という少年で、猛アタックしています。でも、信玄はほかにも弥七郎という別の少年にもアタックしていたので、それを知っている源助はつれない態度。あわてた信玄が必死に言い訳を書いたラブレターが今でも残っています。

びっくり常識3:時代によってモテる条件はこんなに変わる

――恋愛関係の話だと、土方歳三が「モテ自慢」をしていたというエピソードも『やばい日本史』に出てきますね。そもそも、昔の「モテる人」ってどんな人だったんですか?

本郷:モテる条件は、今と違ったと思いますよ。美に対する価値観も昔と今では違いますから。たとえば平安時代の女性の美しさは、何が決め手だと思いますか?

――うーん、決め手ですか。なんだろう……。

本郷:髪の毛です。長く、つややかな黒髪が美しさの決め手だったんです。だから高貴な女性は生まれてから一度も髪を切りません。当時は男が女のもとに通うわけですが、会いたい気持ちを和歌にして送り、想いが成就してはじめて対面するんですね。二人きりになって「やっと会えましたね」と初めて顔を見るんですよ。

――それは現代だとちょっと想像できないですね。それほど長い髪の毛だと、手入れが大変そうです。

本郷:洗えませんから脂でベタベタになりますよね。月に一度、家来たち総出で洗っていたようですが、相当臭いもきつかったでしょう。

でも、見た目だけが重要だったわけではないですよ。男女問わず「コミュニケーション力」はモテるための必須条件でした。和歌のやりとりでお互いを好きになっていくので、知性やコミュニケーション力が高い人はモテました。結局内面が重要というのは、現代と変わりませんね。

――ほかに男性がモテる条件はありましたか?

本郷:太っている人がモテました。「源氏物語」の中に「玉鬘」という巻があり、玉鬘という美しい姫君が出てくるんです。その玉鬘を「ぜひ妻にしたい」と一生懸命口説いた男が熊本の豪族、菊池氏の先祖のようなんですが、彼のことを「でっぷり太っていて、その様子が好ましい」と言っているんですね。しぐさが田舎臭いといって断るのですが。

太っているのはお金持ちの象徴であり、モテる条件だったのです。僕はその頃だったらモテたことでしょう(笑)。