「探究型」日本史と世界史で一変する大学入試現代史を教えることには難しさがつきまとう。厳戒態勢に置かれた故安倍晋三国葬儀場である武道館入り口付近の様子(2022年9月27日)

ここ数年で大きく変わろうとしているのが、高校の「歴史」である。古代から現代へと通史的に教えられてきた「日本史」と「世界史」も、「探究」の要素を取り入れた新しい学習指導要領の求める姿と、大学入学共通テストなどでの問われ方の変化に直面することになりそうだ。(ダイヤモンド社教育情報、人物撮影/平野晋子)

新たに設けられた「歴史総合」

――前回、高校の「歴史」がこれから大きく変わっていくというお話でした。

石川 「日本史A」と「世界史A」が合わさった感じで新たに設けられた「歴史総合」は、2単位、年間70コマほどしかありません。コロナ禍もあって、これをどう教えるのか、現場はこの1学期から大変な状況にあります。

 中学までの日本史の知識を持っている子は、それに世界史の近現代を振りかけてから、「世界史探究」と「日本史探究」を学ぶというのが一番上等なコースになります。実際には、小中学校での日本史を忘れてしまい、高校でもまたという生徒がそれなりに多くいます。

後藤 日本史は小学校から繰り返し学びますが、それは高校入試が悪いのでしょうか。

石川 高校入試の問題を見ると、世界史と日本史を何とかつなげていこうという視点が出てきていますね。それでも、これまでは明治時代で終わりになっていました。

 ところが、近現代を扱う「歴史総合」では、そこから先が結構重視されています。授業は世界史と日本史の教員が交代で行ったりしていますが、知識をどこまで教えたらいいのか、というのが先生方の悩みだと思います。

石川一郎石川一郎(いしかわ・いちろう)
カリキュラムアドバイザー(聖ドミニコ学園星の杜中高など)。21世紀型教育機構理事。1962年東京生まれ。早稲田大学教育学部社会学科地理歴史専修卒業。社会科(日本史)教員として、暁星国際学園、ロサンゼルスインターナショナルスクールなどで教える。かえつ有明中学・高等学校元校長。香里ヌヴェール学院元学院長。著書に『2020年の大学入試問題』(講談社現代新書)、『2020年からの教師問題』(ベスト新書)、『2020年からの新しい学力』(SB新書)、『いま知らないと後悔する 2024年の大学入試改革』(青春新書インテリジェンス)、『先生、この「問題」教えられますか?』(洋泉社)、共著に『学校の大問題』(SB新書)など。

――歴史の授業というと、用語を大量に詰め込まれる感じでしたが。

石川 定期テストもがっちり知識を詰め込むことが前提で作られていました。それが教科での評価につながり、模試に連動していくという鉄板の構造でした。

後藤 昔は教科書に載っていることしか入試では出題できず、それ以外のものを取り上げると「逸脱だ」と指摘されていました。現在の学習指導要領では、発展的なものでは何を取り上げてもいいとなっているので、大学入試にも出せるようになる。

 ところが、いざ出題されると、今度は高校の先生方の要請で、「ここも教科書に入れてくれ」となる。歴史の先生は、自分たちで教えることを増やしているわけで、これほど不幸な話はありません(笑)。

石川 私立の進学校がこぞって採用している山川出版社の歴史の教科書は、年々少しずつ厚くなっています(笑)。

後藤 網羅主義ですね。全部教えないと気が済まない。本質的でない部分で扱う事象が増えていく。そこは教えない、「そこはいいんですよ」と生徒に言えばいいのに、それを受け入れてしまう。

石川 学校業界あるあるですね。結構ボリュームがある江戸時代を張り切ってやり、明治時代も気合を入れると、現代までは行かず、戦後の五大改革指令くらいで終わりますね。

後藤 戦争に負けてから先は、受験ではやらなくていいことになっています。実際、高3の1月はほとんど授業をやっていないのに、授業で終わらない範囲だから、そこは大学入試には出してはいけない。そんなことを学校側は主張してきました。でも実は、日本史の教員って現代史を教えられない。公民の政治・経済が得意な教員ならば対応できますが。

 これは河合塾で教務をやっていた経験から言えるのですが、古代や中世を大学で学んだ教員って、現代史が分からないんです。もちろん、これまでは試験に出にくいから良かったのですが、これからはどうなんでしょうね。当時、近現代史の模試の出題は、政治・経済を担当する、大学で経済史を学んだ教員に依頼していましたからね。