メンバーが「自分の適性」に
気づくチャンスを与える

 こうして、日常的な業務について、「1on1」で問題解決ができるようになったら、メンバー一人ひとりの中長期的なキャリアなどについても、実りのある話し合いができるようになっているはずです。

 例えば、こんなことがありました。

 私が、高く評価している女性メンバーに対して「君は、仕事も的確だし、何より周囲への気配りができるのが素晴らしいと思っている。将来、管理職になってほしいと思ってるんだけど、どうかな?」ともちかけたことがあります。

 ところが、彼女は「お気持ちはありがたいんですが、私は、人の上に立つのが苦手なんです。ずっと現場で仕事がしたいと思っています」と頑なに拒否します。無理強いしても仕方がないので、「そうか……、残念だな」と言って、その場は引き下がるほかありませんでした。

 だけど、私に言わせれば、「人の上に立つのが苦手」という彼女の性格こそが、管理職候補として魅力的な部分でした。そういう性格だからこそ、管理職になっても思い上がったりせず、メンバーと同じ目線で丁寧なコミュニケーションができると思うからです。

 そこで、私は、ちょっとしたプロジェクトを立ち上げて、そのリーダーを彼女に任せてみることにしました。リーダーとしての経験をしてもらうことで、彼女が「自分の適性」に気づけるかもしれないと考えたからです。そして、経験の浅い若手社員をプロジェクト・メンバーにつけて、彼女に面倒をみてもらうことにしたのです。

 しばらくの間、彼女との「1on1」では、そのプロジェクトに関する話題ばかりでした。彼女は、プロジェクト・メンバーにどうやって動いてもらえばいいのかわからないようで、しきりと私にアドバイスを求めてきました。それに対応しながら、私は彼女の様子をじっと観察。そして、悩みながらも、若いメンバーが成長するプロセスに明らかに喜びを覚えているのを感じ取っていました。

 そして、プロジェクトが無事完了したときのことです。

 彼女との「1on1」で、私は、「どう? このプロジェクト、楽しかった?」と問いかけました。すると、彼女は、満面の笑みを浮かべながら、「そうですね。たいへんでしたけど、あの子が頑張ってくれたおかげで、とっても楽しかったですね」と応えてくれました。

 ここで私は「でしょ? やっぱり、君は人を育てるのが好きなんだよ。管理職に向いてると思うよ」と言いました。すると、彼女は「いえいえ」と言いながらも、「たしかにそうかも」という表情を浮かべていました。そして、その後、彼女は管理職候補としての自覚を育てていってくれたのです。

 このように、人は「自分の適性」に気づいていないことが多いものです。

 それを、「1on1」でのコミュニケーションを通じて、気づかせていくのも管理職の重要な役割だと思います。

 しかも、こうして成長していったメンバーたちは、まるで私の「右腕」や「左腕」のように頼りになる存在になってくれます。そして、私は現場を彼らに任せることによって、管理職でありながら、職場に縛られることなく、自由な活動ができる「課長2・0」へとステップアップすることができるようになったのです(詳しくは『課長2.0』をご参照ください)。