国際金融研究所(IIF)の春季総会で講演する植田和男氏国際金融研究所(IIF)の春季総会で講演する植田和男氏(2017年5月) Photo:Bloomberg/gettyimages

2月14日、政府は4月8日に任期満了となる日本銀行の黒田東彦総裁(78)の後任に、元日銀審議委員で経済学者の植田和男氏(71)を起用する人事案を国会に提示した。植田氏はどんな考えを持った人物か。ジャネット・イエレン氏が米連邦準備制度理事会(FRB)の議長に就任した直後である2014年2月に、植田氏が「週刊ダイヤモンド」に寄稿した論稿を再掲する。その中では「時間軸政策=金利のフォワードガイダンス」についての考えが示されている。

※本稿は、2014年2月8日号「週刊ダイヤモンド」に掲載した記事を再編集したものです。人物の肩書や数字を含む全ての内容は掲載当時のまま。

世界の中央銀行は市場への情報発信で
「時間軸政策」を駆使

 ゼロ金利という制約に直面した近年の世界の中央銀行は、政策ツールの手詰まり感から「言葉」による金融政策に膨大なエネルギーを注いできた。バーナンキ前FRB議長は、あたかもシャーマン(呪術師)が「お告げ」を発するかのように、いわゆる時間軸政策(最近の通称は金利のフォワードガイダンス)を駆使して市場に情報発信してきた。2014年2月に米FRB議長となったイエレン議長もこの政策の強化に関心を示している。

 時間軸政策の基本的な考え方は、1990年代終わりに米経済学者ポール・クルーグマンやマイケル・ウッドフォードによって構築された。景気やインフレ率などの指標が十分回復しゼロ金利が不要となった後も、しばらくはゼロ金利を続けると中央銀行が「約束」することで緩和効果を作り出せる、というものだ。

「本来は引き締めが必要な局面になっても、ゼロ金利を続けます」と言っておかないと、市場の期待は大きくは動かない。この「約束」が、将来の短期金利やインフレ率の予想に影響を与え、当面の経済にもよい効果をもたらすはず、という考え方である。

 文化人類学者のD・R・ホルムズは最近、中央銀行がコメント等で経済を操ろうとすることを「言葉の経済」と名づけている。文化人類学者にとっては、これが「興味深い風習」に映ったのだろう。