日本銀行Photo:PIXTA

日銀審議委員時代の植田氏は
「時間軸政策」の理論的支柱に

 政府は、日本銀行の次期総裁に、経済学者の植田和男氏を起用する人事案を固めた。副総裁には、氷見野良三前金融庁長官、内田眞一日銀理事が起用される見込みである。

 植田氏は、周知の通り日本を代表するマクロ経済学者であり、過去には有力な総裁候補として名前が挙がったが、正直なところ今回、筆者は同氏の起用の可能性を全く想定していなかった。

 同氏は優れた理論家だが、同時に審議委員を7年務めた実務家でもある。日銀に在籍した期間(1998~2005年)は、政策委員会において一審議委員でありながら、議論の整理や、異なる各委員の意見の妥協点の方向性を示すなど、意見の集約においても重要な役割を果たした。

 理論家にありがちな自らの意見を押し通すというスタイルではない。同氏が、政策委員会の議長としての高い資質を持っていることは間違いないだろう。

 植田氏自身の金融政策に対するスタンスは、ハト派かタカ派かという、単純な評価は難しい。基本的には、自らの理論に基づき、その時々の経済情勢や金融システムの状況を踏まえた上で、政策提言を行ってきた。

 審議委員時代の最大の貢献は、いわゆる「時間軸政策」の理論的支柱となり、その導入を主導したことである。

 ゼロ金利制約に直面しても、ゼロ金利政策の長期化を約束することで長期金利を引き下げ、金融緩和効果を得る。これは、今で言う「フォワード・ガイダンス」の走りであり、グローバル金融危機後に各国の中央銀行が導入したが、日銀は99年2月~00年8月のゼロ金利政策時代に採用した。

 以降では、植田氏の審議委員時代の考え方をさらに振り返り、金融政策を巡る姿勢を深掘りして分析。その上で、世界経済の動向も踏まえ、植田新体制の下で、日銀の政策がどのように運営されるのか検討していきたい。