トヨタが韓国ポスコに鋼材の「乗り替え」画策、日本製鉄との訴訟を巡る最終対決全内幕【再編集】Photo:PIXTA
トヨタ自動車の社長が、14年ぶりに豊田章男氏から佐藤恒治・執行役員に交代する。特集『トヨタ「非創業家」新社長を待つ試練』では、佐藤新社長を待ち受ける課題について、ダイヤモンド編集部の記者が徹底取材し、独自の視点でまとめた記事を紹介する。#1は、トヨタの調達について。トヨタと韓国ポスコ、日本製鉄の交渉の内実を明らかにする。

日本製鉄がトヨタ自動車と中国鉄鋼メーカーを提訴してから4カ月。水面下で、トヨタが日本製鉄から韓国ポスコへ鋼材取引の乗り換えを画策していたことが分かった。果たしてポスコはどう動いたのか。特集『絶頂トヨタの死角』の#11では、ポスコとの交渉の内実に迫るとともに、日本製鉄がトヨタに強気姿勢を貫く三つの根拠を解き明かす。(ダイヤモンド編集部副編集長 浅島亮子)

※本稿は2022年2月20日に公開した記事を再編集したものです。人物の肩書や数字を含む全ての内容は取材当時のまま

トヨタは早くも“禁じ手”に着手
日本製鉄は「令和の住友銀行」になるのか?

 やはり、トヨタ自動車は“禁じ手”を用意していた。

 2021年10月に日本製鉄がトヨタと鉄鋼世界最大手・中国宝武鋼鉄集団の宝山鋼鉄(宝鋼)を特許侵害で訴えた問題は、「場外乱闘」に発展している。日本製鉄にとってトヨタは最重要顧客であり、ユーザー企業を訴えるなど前代未聞のことである。

 あるトヨタ関係者によれば「トヨタが韓鉄鋼大手のポスコに鉄鋼製品約10万トン分の注文をお願いした」という。明らかに日本製鉄からの“転注(注文の乗り換え)”を想定したものであり、トヨタは日本製鉄を追い込む手段として、鋼材受注量の引き下げを画策していたのだ。

 トヨタは近視眼的な事象にとらわれることなく、持続的な経営を実践する企業として知られている。それを貫くための処世術でもあるのだろう。重大局面に至ったときにパートナーがどのようにトヨタに対処したのか――。その際にトヨタが受けた恩恵も、そして恨みも長きにわたって忘れることはない。

 典型例が旧住友銀行(現・三井住友銀行)との因縁だ。戦後、トヨタが資金繰りに窮した際に大阪銀行(住友銀行の前身)に袖にされたという負の歴史はトヨタ社内で語り継がれた。転機は三井住友銀行出身の役員を受け入れた18年。トヨタが怨念を払い両者が和解するまでには、実に70年近くを要したことになる。

 果たして、日本製鉄は「令和の住友銀行」になってしまうのか。日本製鉄とて、そうしたトヨタの粘着質な行動原理を理解した上で“売ったけんか”だったろう。実際に、訴訟提起以降も強気な姿勢を崩していない。

 次ページでは、トヨタの発注要請に対してポスコがどう動いたのか、その交渉の内実を明らかにする。また、日本製鉄がトヨタに対して強気な態度に出る「三つの根拠」についても解説していく。