「なぜかあの人には、お金も人も集まる……」
どんな業界にも一人や二人存在する、人望のある人たち。ときには「カリスマ」と称され、もてはやされる。
 このような人物に共通しているのは長けたコミュニケーション能力であることは間違いない。それは「コミュ力おばけ」と言っても過言ではないほどである。
コンサルタントとして数多の経営者やビジネスパーソンと対峙してきた安達裕哉氏は、「コミュ力おばけ」の人たちが共通して、人と接する際にこっそりやっていることに気がついた。
 本記事では『頭のいい人が話す前に考えていること』の本文を一部編集してお届けする。(構成/淡路勇介)

頭のいい人が話す前に考えていることPhoto: Adobe Stock

人心掌握の達人・田中角栄が
秘書に出した指示とは?

 コミュニケーションにおいて“話が上手になること”よりもはるかに大切なことがあります。
 それは“承認欲求をどうコントロールするか”です。

 昨今のSNSの台頭をみても、人は多かれ少なかれ「承認欲求」によって突き動かされるのは間違いないでしょう。ほとんどの人間はみな周りから認められ、賞賛されたいと思っているのです。

 “誰もが人から承認されたい”
 
これは裏を返せば、自分の承認欲求は抑制し、他者の承認欲求を満たすことができれば、「コミュニケーションの強者」になることが可能だということです。

 つまり、「コミュ力おばけ」がやっていることを一言で言えば、

 他人から承認される側ではなく、他人を承認する側に回る。

 ということなのです。

 周囲から“カリスマ”などと呼ばれ、絶大なる信頼を得ている政治家や経営者は、往々にして承認欲求のコントロールに長けています。

 たとえば、最も影響力のあった政治家のひとり、田中角栄は秘書から支持者にカネを配るとき、秘書にこう言ったそうです。

「いいか、きみが候補者にカネをくれてやるなんて気持ちが露かけらでもあれば必ず顔色に出る。そうすれば相手は百倍、千倍にも感じる。百万、二百万を届けたところで一銭の値打ちもなくなるんだ」
 田中が金権政治の権化のようにいわれながらも、憎めないキャラクターと見なされるゆえんであろう。

『田中角栄 昭和の光と闇』(服部龍二著/講談社現代新書)より

 田中角栄はこのように、あえて秘書から頭を下げ、カネを納めてもらうべく丁重にお願いするように指示しました。“カネを渡す”ことが大事なのではなく、“候補者の自尊心を傷つけずにカネを渡す”ことが大事なのだと、田中角栄は理解していたのでしょう。

 田中角栄はのちに賄賂で捕まっていますので、笑えないエピソードではありますが、彼があれほどまで支持され、今でも日本を変えた政治家として名を馳せている理由はよくわかります。

 相手の心を掴み、信頼を得ないと仕事にならないのは政治家だけではありません。

 しかしながら、他人から承認される側ではなく、他人を承認する側に回る。

 といっても具体的にどうすればいいのかわからない人もいるでしょう。

 でもそれは、幼稚園でも習うような基本的なことなのです……