誰でも「頭がいい人」のように思考するためのツール「フレームワーク」。だが世の中には、いろいろなフレームワークが溢れていて、「いざ使ってみよう!」というときにどれを使えばいいのかわからない…。こんな悩みをかかえている人も多いだろう。それを解決してくれるのが、『グロービスMBAキーワード 図解 基本フレームワーク50』だ。厳選されたフレームワークだけを紹介し、使い方のコツをシンプルにまとめた非常に便利な1冊だ。本連載では、本書の内容から、「誰でも実践できる考えるワザ」をお伝えしていく。

グロービスMBAキーワード 図解 基本フレームワーク50Photo: Adobe Stock

「5つの力分析」とは?

 ある企業の収益性を説明する際に、いきなりその企業について分析するのではなく、まずどのような業界に属しているかを知り、さらにその業界におけるポジションを知るという2段階で分析を行うと、企業の収益性を説明しやすいということが昔から言われていました。

 儲けにくい業界の中で頑張ってもなかなか収益性は上げられないという発想です。

 ただし、「儲けやすい業界」「儲けにくい業界」をどう決定するかは簡単な問いではなく、長年、経営学者の頭を悩ませてきました。

 そこに有効かつ使いやすいフレームワークとして登場したのがポーター教授が提唱した5つの力分析です。

5つの力分析を解説した図

 5つの力とは具体的には、①業界内の競争、②買い手の交渉力、③売り手の交渉力、④新規参入の脅威、⑤代替品の脅威です。

 これらの強さをトータルで分析することで、ある業界が収益性を上げやすいかどうかがわかります。

 5つの力のそれぞれは、「業界の利益を削いでいく力」と見なすことができ、これが多く強いほど、業界に利益は溜まりにくいという発想です。

 ①業界内の競争:一般的に想起される競争の激しさです。業界の成長率が低いにもかかわらず、競合の数が多かったり、製品・サービスが差別化されていない場合に強くなります。

 ②買い手の交渉力:買い手が寡占業界であったり、買い手の購入量が多い場合、あるいは買い手が購入先を容易に切り替えられる場合に強くなります。

 ③売り手の交渉力:売り手が寡占業界であったり、顧客の製品・サービスに占める重要性が高い場合、あるいは顧客が容易には購入先を切り替えられない場合に強くなります。

 ④新規参入の脅威:参入障壁が低く、新規参入が容易な場合に強くなります。典型的な参入障壁としては、多額の投資、規制、チャネル、既存企業のブランドなどがあります。

 ⑤代替品の脅威:コストパフォーマンスの高い代替品があると強くなります。代替品とは、ニーズが同じで形が違うものです。たとえば、眼鏡の代替品としては、コンタクトレンズやレーシック、眼内レンズが挙げられます。

事例で確認

 図表9-2は日本のビール業界について分析し、対応策を検討したものです。

5つの力分析を理解するための図

 少子高齢化でますます人口が減少し、また、「とりあえずビール」の習慣の衰退に代表されるビール離れがある中、競争は緩くはありません。

 業界内は大手4社がしのぎを削っています。流通や消費者からのプレッシャーも厳しく(彼らから見たら、選択の余地がある)、業務用市場も、食い込むための営業は容易ではありません。

 酎ハイやハイボール、ノンアルコール飲料といった代替品の脅威も強いものがあります。普通に考えれば、大きく儲けるのは容易ではなさそうです。

 ではどのようなアクションをとればいいでしょうか?

 例えば、業界の中の競争環境を緩和し、流通業者との交渉力を増す手法として、業界内の合併が考えられます。過去にはキリンとサントリーの合併が実現間近まで行ったことがありました。

 業界を日本に限定しないことも有効でしょう。JTなどは早々と国内市場に見切りをつけ、アジアでの事業拡大を目指しています。

 ビール業界も同様に、戦いの場をアジアに移し、そこで良いポジションを確保することが重要かもしれません。

用いる場面
・参入を検討している業界の魅力度を知る
・業界の魅力度を上げたり維持したりするための方策を探る
・自社の強みが活かせそうな業界セグメントを探したり、または「業界」の再定義を行う

コツ・留意点

1.

一見同じ業界に見えても、セグメントを細かく分けると競争環境は変わるので注意が必要です。
たとえば中古書店事業は、貴重な古書を扱う専門店と、比較的最近の中古書を扱う一般の中古書店では競争状況が全く異なります。とくに後者はブックオフやAmazonとの競争にダイレクトにさらされる点を意識する必要があります。
逆に、業界を幅広く取ることで見える風景が変わってくることもあります。乗用車事業は、日本国内を見ると成熟から衰退市場で競争も激しく収益を上げるのは容易ではありませんが、グローバルに見れば成長の伸び代がありますし、地域にもよりますが、国内ほど激しい競争にはなっていません。


2.

5つの力分析は有効ではありますが、ここに表れないプレーヤーにも注意する必要があります。
たとえば補完財(互いに売上げを伸ばし合う関係にある商材)を扱う企業や、通常のバリューチェーンでは説明しにくいITのプラットフォーム企業などです。
特に近年成長著しいITビジネスでは、補完者をひきつけたり、プラットフォームを自ら構築し、「胴元」になることが事業成功の鍵となっています。事業に応じた効用と限界を理解することが必要です。