毎年平均100名近い海外機関投資家と面談しているニコン現CFOの徳成旨亮氏によると、海外機関投資家との面談で、頻繁に「君たち(日本経済・日本企業・日本人)には『アニマルスピリッツ』はないのか?」と問い質されてきた、という。
海外投資家は、日本の社会や企業経営を、血気が衰え、数値的期待値を最重視しリスクに怯えている状態にあると見ている。結果、日経平均は1989年の最高値を未だ更新できておらず、水準を切り上げ続けている欧米株と比べて魅力がないと言われても仕方がない状況だ。
この現状を打破するにはどうしたらいいか? 徳成氏は、「CFO思考」が「鍵」になるという
朝倉祐介氏(シニフィアン共同代表)や堀内勉氏(元森ビルCFO)が絶賛する6/7発売の新刊『CFO思考』では、日本経済・日本企業・日本人が「血気と活力」を取り戻し、着実に成長への道に回帰する秘策が述べられている。本書から、一部を特別に公開する。

「このままだと日本経済は沈没するぞ」<br />海外投資家が三菱UFJのCFOに放った厳しすぎる本音Photo: Adobe Stock

「君のオフィスの設定温度は何度だ?」

 2015年7月、私は三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)のCFOとなって初めての海外IRを行いました。海外IRとは、諸外国に点在する投資家を訪ねて面談し、自社の戦略をアピールして最終的に株式を買ってもらう、あるいは既存株主には買い増しまたは保有継続してもらうことを目的とする活動です。

 私は過去にも同社の財務企画部長として海外投資家と面談した経験がありました。その延長線上で準備した財務計数や中期経営計画に関する膨大な英文のQ&A(模範回答集)を機中で勉強しながら、最初の訪問地ロサンゼルス(LA)に向かいました。

 真夏のLAで最初に訪問したのは、中堅のファンドでした。その対話の第一問がこれでした。

「君のオフィスの設定温度は何度だ?」

 一瞬、質問の真意が掴めず返答に困った私に対し、そのファンドマネージャーは続けました。

「どうせ『地球にやさしく』なんていう御託を並べて、28℃設定にしてるんだろう。グーグルやアマゾンのオフィスは何度か知っているか? 21℃だぞ。人間は少し寒いくらいのほうが頭が働くんだ

 唖然としている私に彼はたたみかけます。

「君の会社は、日本の最優秀と言われる大学の卒業生のなかから、さらに優秀と言われる学生を採用しているんだろう。そうした若者のアニマルスピリッツを掻き立て、その能力を最大限に活かすことこそが、経営者の役割ではないのか?

 日本は少子高齢化でこれからどんどん人口が減り人口オーナス(注:人口ボーナスの逆)で経済成長は鈍化する。そうしたなかで君の会社のような企業が、優秀な人材の能力を最大限活かさないでどうする。

 有能な人材は経営にとっては資源であり資本だ。『地球にやさしく』なんて言って地球の資源を心配している場合か? 地球に負荷をかけてもいいから、最高の職場環境を準備して、自分の会社の人材に最高のパフォーマンスを出させるべきじゃないのか? このままだと、地球が滅びるはるか手前で日本経済は沈没するぞ」

 このファンドマネージャーは日本株の運用を数十年も行ってきた業界では名の知れた人物で、妻は日本人、趣味は京都の寺院の庭巡りという日本通の方です。

 その彼が日本の将来を憂えて、安易に平等主義やきれいごとに流れるのではなく、有為な人材には最高の職場環境を用意し、必要な教育・研修の機会を与え、同時にとことん負荷をかけて高い成果やアウトプットを求め、アニマルスピリッツを刺激する処遇制度を用意し、企業価値を高めることが企業経営者の責務ではないか? そうした議論をふっかけてきたわけです。