いまや小学6年生でも約8割の子がスマホ・携帯電話を持つ時代だ。スマホを頻繁に見てしまう気持ちはわかるが、とくに子どもの脳には悪影響だという話もある。スマホばかり見ている子には「没収するよ!」と言いたくなるのではないだろうか。そんなときに思い出してほしい話が『子どもが幸せになることば』にある。この本は、医師・臨床心理士の田中茂樹氏が、自身も共働きで4人の子を育てながら、20年間、5000回以上の面接を通して子育ての悩みに寄り添い続けてきてたどりついた言葉かけをまとめているものだ。2019年の発売後すぐに重版となり、その後も版を重ねてロングセラーとなっている。この記事では、子どものスマホ問題と言葉かけについて事例とともに紹介する。(構成:小川晶子)

子どもが幸せになることばPhoto: Adobe Stock

ほとんどの子どもがスマホを持つ時代

 子どもがスマホを見てばかりいたとき、どんなふうに声をかけるか。悩んでいる人は多いのではないだろうか。

 文部科学省が実施している全国学力・学習状況調査(令和4年度)の資料によると、小学6年生の約80%がスマホ・携帯電話を持っており、SNSや動画視聴に使っている。中学3年生では約95%である。

 筆者の小学3年生になる息子にはまだ持たせていないが、周りにはキッズケータイを持たせている人がけっこういる。

 小学校高学年になって塾などに通うようになると、連絡手段としての必要もあってスマホや携帯電話を持たせることが多いのではないかと思う。

 子どもたちにとっても、スマホはもはや当たり前の存在。生まれたときから近くにある、便利で面白いツールだ。禁止することは難しいだろう。

 しかし、子どもがスマホをしょっちゅう見ているのは心配である。スマホの使い過ぎは、記憶力や集中力を低下させるという話はメディアでもよく話題になっている。

 子どもがスマホ依存になったら怖い。だから、子どもがスマホを見てばかりいるとイライラして「しばらく没収!」と言いたくなる。

スマホを没収してもいいことはない

 本書には、著者自身の失敗談が載っていた。医師・臨床心理士の田中茂樹氏は、普段、子どもの問題について親から相談を受け、アドバイスをしている。

 ところが、自分の子がスマホに夢中になっていたとき、NGの行動をしてしまったというのだ。

 中学1年生の息子さんのスマホは、朝も夜も常にLINEの着信音が鳴っていたという。そして、学校から帰って早速スマホを触っている彼に「昨日みたいに夜10時になってもスマホに触っていたら、しばらく没収するよ」と伝えた。

 翌日、息子さんは夜9時半になってもスマホに触っていたが、その後風呂に入ってから宿題をやり始めた。

「やっぱりまだキミには早いみたいやね。時間がわからなくなってる。いまから宿題をしたら、寝るのは11時になるやんか」と怒ってスマホをとりあげました。(P.230-231)

 あるあるではないだろうか。日本中のあちこちで似たシーンが繰り広げられているに違いない。

 親は、子どもが日ごろスマホばかり見ていることにイライラしているから、「今だ!」という瞬間を見つけてスマホを没収し、反省させようとするのだ。

 その結果、子どもは反省するだろうか? そんなはずがない。「うちの親はフェアじゃない」と不満をため、信頼関係にヒビが入りかねない。

親だって間違うことがある

 田中先生はこのあと奥さんと話し合い、息子さんに謝ったという。

妻からは「これはピンチではなくチャンスなんだから。話し合ういい機会なんだから」と、この本で私が書いているようなことを言われ、「明日、しっかりあの子と話してみたら」と励まされました。
カウンセラーとしても反省しきりです。でも、謝ったり、話し合ったりして、やり直す勇気こそ大事だと気持ちを立て直しました。現実の問題に出会って、失敗したり、立ち直ったりするのが人間なんだからと自分に言い聞かせて。(P.232)

 失敗談としてさりげなく書かれているようでいて、これはものすごく大事なことだと思った。

 多くの親の相談にのっているプロのカウンセラーですら、自分のこととなると完璧ではないのである。

 これをわざわざ本の中に書くのは勇気がいることだろう。しかし、読む人には勇気を与えるし、メッセージをしっかりと刻んでくれる。

 親は完璧である必要はない。失敗して子どもに謝ることもある。

 現実の問題に出会うたび、考えて、話し合ってやっていけばいいのだ。もっと「ラクに育てていい」、これは本書の全体を通じた考え方である。

「そういう接し方もあるのか」と知ることで、子どもにイライラすることが少しでも減ればと、私は強く望んでいます。
親がイライラしているのは、子どもにはつらいことです。
逆に、親がいつも楽しそうにしていることは、子どもを安心させます。(P.9)

「スマホはしばらく没収!」を「信じることば」に変えると

 本書では「あるある」シーンで親が言いがちなことばを、「信じることば」に変換して教えてくれている。

「スマホはしばらく没収!」が言いがちなことばであるのに対し、信じることばは何だろう。さきほどの失敗談の続きはこうだ。

 田中先生はまず「夜10時になってもスマホを触っていたら没収」と言ったのに、「10時を過ぎて宿題をしていたから」とスマホを没収したのは間違いだったと謝った。そして、黙っている息子さんに、奥さんが「これは大事なことだから、キミの意見が聞きたいのよ」と言った。

 これが、子どもを信じることばである。

 スマホを没収されて不満に思った子どもも、親が謝ってくれて、意見を聞いてくれたら、一人の人間として尊重してもらっていると感じることができるだろう。

 子どものスマホ問題は簡単ではないが、こうやって信じることばを使いながら家族で乗り越えていけたらいいのではないだろうか。