植田和男日銀総裁Photo:AFP=JIJI

日銀の「多角的レビュー」は
どのような役割を果たすのか

 日本銀行は、植田和夫新総裁の下で4月に開かれた最初の金融政策決定会合で、今後1~1.5年程度かけて、過去25年間の金融政策運営について「多角的レビュー(検証)」を行うと発表した。

 過去25年間で日銀が実践した非伝統的な金融緩和政策は、ゼロ金利政策(1999~2000年)、量的緩和政策(01~06年)、包括的金融緩和政策(10~13年3月)、量的質的金融緩和(13年4月~)、長短金利操作(16年~)である。出口については、00年のゼロ金利政策解除と、06年の量的緩和政策解除で、既に2回経験している。

 日銀によれば、現在の高いインフレ率(特に生鮮食品を除くコアインフレ率)は、コモディティー価格の上昇をはじめとした「コストプッシュ型」など供給側の要因に基づく「望ましくないインフレ」である。世界のコモディティー価格の上昇が一服しているため、やがて上昇圧力は弱まっていくと説明している。実際、世界のインフレ率も同様の理由から徐々に低下している。

 そして日銀は、日本のインフレ率が今年末から来年にかけて前年比2%を下回るとみている。しかし、その後は恐らく、来年度の後半ごろにかけて賃金上昇や需要拡大による「望ましいインフレ」が生じることで2%を超え、24年度平均で2%程度の物価上昇が実現すると予想しているようだ。

 しかし、25年度のインフレ率は1.6%と2%を下回る見通しのため、「デマンドプル型」による望ましい形となっても、物価上昇目標(2%程度)の持続はできないと予想しているようにも映る。

 仮に来年、デマンドプル型でインフレ率が2%に向けて上昇しても、その状態が安定的に実現できない場合、日銀は実現の見通しが立つまで金融緩和を続けるとコミットしている。

 多角的レビューを通じ、過去25年間の非伝統的金融緩和政策をしっかり検証することで、金融緩和が長期化する場合、もう少し工夫していれば金融緩和効果をもっと高められたはず、といった教訓を得る機会になるであろう。それにより、過去に採用した政策手段でも、工夫を凝らして再び利用することがあり得る。

 一方、デマンドプル要因に基づいてインフレ率2%を安定的に実現できる見通しが立った場合は、過去2回の出口戦略を検証し、教訓を引き出すことで新たな出口戦略に生かすことができるだろう。

 市場参加者による日銀への政策調整期待は根強く、特に、10年物国債の金利を操作する政策に対し、調整を求める声が多い。そこで本稿では、以降、政策調整と長期金利の行方について考察する。