企業が自己変容を繰り返すために求められる「進化の素」

先行きが見通せない大転換の時代にあって、企業・組織も自己変革が求められている。しかし、それは言葉で言うほど簡単なことではない。2023年4月に発刊された『パワー・オブ・チェンジ』(ダイヤモンド社)では、既存の組織が自己変容を繰り返すための思考の軸を示し、その最深部に埋め込むべき「変革を駆動するカルチャー」として、3つの「進化の素」を紹介している。同書で第2章のリードを担当したデロイト トーマツ コンサルティング執行役員/パートナーの宮丸正人氏の言葉から、その概略を説明する。(ダイヤモンド社出版編集部)

宮丸正人│Masato Miyamaru

デロイト トーマツ コンサルティング執行役員/パートナー

ビジネスファイナンスリーダー。専門は、経営戦略、企業変革、イノベーション、DX、投資戦略、M&Aなど。大手金融会社の企画部門、事業開発部門責任者の後、ブティック投資銀行の取締役CFO、日系大手コンサルティングファームの戦略コンサルティング部門ヘッド、経営企画部門ヘッドを経て現職。事業会社での豊富なマネジメント経験を有し、内閣府価値デザイン経営タスクフォース委員も務める。

既存の企業・組織が自己変容を繰り返す「思考の軸」

 いま人類がグレートトランジション(大転換)の時代に直面していることに異論を唱える人は少ないはずだ。そうした大転換時代の混沌の中で、既存の企業・組織は、継続的に価値を創出する装置として、機能不全に陥りつつあるのかもしれない。

 しかし一方で、ビジネスの本質は変わらない。解決すべきお題を見つけ、その解決方法を創造して価値を生み出し、その創出価値を増幅するというのが、私たちが考えるビジネスの本質である。変化しているのはビジネスに求められる「意味」や「価値」といえる。外部環境の変化と向き合いながら、ビジネスの本質を体現するために、既存の企業・組織には、これまでとは異なるケイパビリティ(組織的な能力)が求められる。それは、企業・組織としての戦い方だけでなく、価値創出の手法や、新たな組織的な能力の獲得、さらには組織カルチャーの醸成にまで及ぶ。

 企業・組織は、変化の激しい時代にみずから進化を続けながらビジネスの本質を再駆動していかなくてはならない。そのために、私たちは、既存の組織が自己変容(トランスフォーメーション)を繰り返すために、これまでの企業経営の要諦とは異なる「思考の軸」が必要ではないかと考えている。それは、不確実で急速な変化の時代に、企業・組織が長く存在し続けるための思考といってもよい。

 自己変容を繰り返す「思考の軸」は、図のような4つの階層でとらえることができる。

 第1階層では、企業・組織の目的と戦略が、外的な変化と組織内部のギャップを超えるイノベーションの探求と習熟へとその軸足が移る。パーパス(存在意義)やMTP(将来に向けた世界観:Massive Transformative Purpose)といった群れとしての軸を起点に、企業や組織の戦略とイノベーションは、ますます融合していく。第2階層では、ヒト・モノ・カネ・情報という経営資源に加えて、みずから進化を繰り返す群れ、すなわち多様なコミュニティが第5の経営資源としてクローズアップされる。第3階層では、変化する環境に適応しながら、みずから変化し続けるケイパビリティとして、統合されたダイナミックケイパビリティ(動的な組織能力)の獲得と発揮が重視される。

 そして、第1階層から第3階層を駆動するために、群れとして変わり続けるカルチャー=行動様式を深層部(第4階層)に育む必要がある。私たちはこのカルチャーを「変革を駆動するカルチャー」と位置づけ、自己変容を繰り返す「進化の素」と呼んでいる。

 この「進化の素」こそが、企業・組織の変革の原動力(Power of Change)なのである。