1万件を超える「幼児から高校生までの保護者の悩み相談」を受け、4000人以上の小中高校生に勉強を教えてきた教育者・石田勝紀が、子どもを勉強嫌いにしないための『勉強しない子に勉強しなさいと言っても、ぜんぜん勉強しないんですけどの処方箋』を刊行。子どもに失敗してほしくない、教育熱心な人ほど苦悩を抱える大問題への意外な解決法を、子育てを「動物園型」「牧場型」「サバンナ型」にたとえて解説します。

自分から勉強する子になる「牧場型子育て」のメリットと注意点Photo: Adobe Stock

牧場型子育てって?
自由行動や集団行動が増えていく幼児期後期から青年期

 牧場で飼われている牛や羊は、屋根がある場所で寝て、エサを与えられ、掃除してもらえます。昼間は柵で囲まれた草原に放牧され、自由に動き回り、食べたい草を食べます。
 牧場の広さは、お庭くらいの狭い牧場から、サファリパークのような広大な敷地までさまざまです。そこに出ると自由に遊びたくて遠くまで行こうとしますが、「よく見ると柵があった」と気づきます。
 人も同じで、食事、着替えなどが少し自分でできるようになり、考えや気持ちも片言で話せるようになる3歳頃から、自由に行動できる時間が増えていきます。

子どもの行動範囲が広がる

 ただし、まだ目を離すと危険なので、親きょうだい、保育園や幼稚園の先生など大人がつねに見守り、安全を確保した場所で行動させます。学校生活がはじまると、親の目が届かないところで、先生や友だちと過ごす時間が増えていきます。
 中学生、高校生になると、友だちと遊ぶ時間が多くなりますが、食事や睡眠など生活の基本が家庭にあることは変わりません。大学生になると、アルバイトや一人暮らしをはじめる子もたくさんいますから、親が把握できないほど世界が広がります。まだ学費や生活費など経済的な援助を必要としますが、子どもが親に頼ることは少なくなります。

牧場型子育てのメリット
子育て後の人生を考えながら、少しずつ子離れの練習をすればいい

①人間関係を学んで道徳や社会性を身につけていく
②好奇心や興味の対象も広がっていく
③生活面でも精神面でも、家族に支えてもらいながら自立に向けて訓練できる

 保育園や幼稚園で集団生活がはじまり、家庭の外で過ごす時間が増えると、子どももいろんな人と出会い触れ合うようになります。
 同世代のお友だちと遊ぶことによって、コミュニケーションも覚えはじめます。
 小学校低学年の頃まで、自分の気持ちや考えをうまく伝えられない間は、お友だちとケンカをすることもあるでしょう。
 そのような経験の中で、やってはいけないことや言ってはいけないことを知り、人間関係を学んで道徳や社会性を身につけていくのです。
 新しい経験をするたびに刺激も受けますから、好奇心や興味の対象も増えて世界が広がっていきます。
 小学生は目の前のことしか考えませんが、中学生になる頃から先のことを考えて準備したり、将来のことを考えはじめたりする子も出てきます。
 高校生や大学生にもなると、自分でやるべきことややりたいことを考え、親が余計なことを言わなくても勉強や部活など目標に向かって努力するようになります。
 それでもまだ、親が見守ってくれて、家庭というホームグラウンドがあるから、安心してやりたいことに打ち込めるのです。
 このように、生活面でも精神面でも、家族に支えてもらいながら自立に向けて訓練できる点が、牧場型の時期の最大のメリットです。親も、この時期に少しずつ子育て後の人生のことを考えながら、子離れの練習をすればいいのです。

牧場型子育ての注意点
子どもへの接し方がわからないという悩みが急増する

①他の子と比較される
②平均値かそれ以上を求め続けられ、親子バトルが絶えない
③自分で決める訓練ができず、自立できなくなる

 集団生活がはじまると、親はどうしても他人との比較をはじめてしまいます。
 子ども自身も他人と自分の違いを認識するようになりますが、長所をほめられて育った子どもは「人は人」と割り切ることができるのであまり気にしません。
 しかし、親が「○○ちゃんはバレエが上手なのに」「○○くんは勉強ができるのに、なんであんたはできないの?」と、他の子と比較してしまうと不幸の始まりです。
 優秀に見えるよその子への嫉妬や羨望を子どもにぶつけて、嫌みを言ったりバカにしたりするケースもめずらしくありません。「他の子を引き合いに出せば子どもがライバル心を燃やすだろう」と思っている人もいるのですが、それは大きな勘違いです。
 人と比較されて育った子どもは、「自分は何をやってもダメだ」と自信をなくし、自己肯定感が低くなります。こうして自信を失った子どもが主体的に「勉強しよう!」と思うことはないでしょう。
 こうして、子どもに平均値かそれ以上を求め続けていると、親子バトルが絶えません。
 それが親の態度のせいだと気づかず、「子どもへの接し方がわかりません」という悩みが急増するのは中学生の頃です。
 さらに、子どもが高校生や大学生になっても、親の見栄や世間体のために進路や就職を親が決めてしまったら、精神的には「動物園型」の親子関係に逆戻りします。
 人間の幸福度は、所得や学歴より「自己決定」によって決まることが、さまざまな調査でわかっています。「牧場型」の時期に、自分で決める訓練をさせることができなければ、最悪、自立できなくなってしまいます。

*本記事は『勉強しない子に勉強しなさいと言っても、ぜんぜん勉強しないんですけどの処方箋』から、抜粋・構成したものです(次回へ続く)。