衆院特別委員会の閉会中審査で、話をする加藤勝信厚生労働相(左)と河野太郎デジタル相(右)マイナンバー制度への不信感が広まり、岸田内閣の支持率低下の一因にもなっている(7月5日の衆院特別委員会の閉会中審査で、話をする加藤勝信厚生労働相=左と河野太郎デジタル相=右) Photo:JIJI

岸田文雄首相の肝いりで「マイナンバー情報総点検本部」を立ち上げたマイナンバー制度。かつて「消えた年金記録問題」の対応をした筆者が、問題の本質について、ずばり提言します。(トライオン代表 三木雄信)

マイナンバー入力ミスが
2436万件あったとしても仕方ない理由

 最近、マイナンバー制度に関する問題が噴出しています。「マイナ保険証に別人の情報が登録されていた」「公金受取口座に別人が登録されていた」「マイナポータルで別人の情報が閲覧可能になっていた」「マイナポイントが別人に付与されていた」などなど。全国各地で新しい問題が発見される影響で、制度への不信感が広まり、岸田内閣の支持率低下の一因にもなっています。

 一連の問題の原因について政府は、「人為的なミス」と説明しています。そして、マイナポータル上の29項目の、マイナンバーに対するひも付け業務時の人為的ミスの確認をするために、デジタル庁に「マイナンバー情報総点検本部」を設置し、厚生労働省と総務省、地方自治体などが連携して「総点検」すると言っています。

 しかし、私はこれで問題が解決するとは思えません。理由は、実は私も同じようなひも付け業務を数百万件規模で一度、9億件規模で一度、プロジェクトマネージャーとして実施した経験があるからです。

 一度目は、ソフトバンク時代にブロードバンド事業の立ち上げをやっていた時です。代理店が入力した数百万件の間違いや過不足のある申し込みデータを修正し、単一のIDに正しくひも付けするという業務でした。

 二度目は、自分が起こした会社を経営する傍、厚生労働省大臣政策室政策官、日本年金機構理事(非常勤)の立場にいた時です。「消えた年金記録問題」を解決するため、9億件の紙台帳のデータとシステム上のデータのひも付け業務に当たりました。

 この貴重な経験を通じて分かったことは二つ。一つ目は、「人は一定の確率でキーボードの入力間違いをする」ということです。どれだけプロのタイピストであっても、ミスがゼロではありませんし、入力するのはプロばかりでもありません。

 では、入力間違いの確率とは、どれくらいでしょう? 消えた年金記録問題の対応をした2006年前後は、データ入力代行やアウトソーシングの業界団体が基準値を開示していました。しかし現在はないので、一般的なタイピング大会の数値を参考にしてみましょう。

 大手家電量販店が主催する「トレンドマイクロカップ タイピングコンテスト2023春」の結果を見ると、「日本語タイピング 大学生・大人部門」の1位の人で、99.3%の正確性でした。つまり、どんなにタイピングが得意な人でも、0.7%は不正確なのです。

 マイナンバーのデータは、1人当たり29項目を1億2000万人分です。仮に入力ミス率が0.7%とすると、2436万件のデータが不正確ということになります。膨大な数です。