給与収入だけで老後資金をまかなえるのか不安に思う人が増えている。多くの人にとって「投資」が避けて通れない時代になってきた。資産を増やすという点で大きな選択肢の1つになるのが株式投資だ。「株投資をはじめたいけど、どうしたらいいのか?」。そんな方に参考になる書籍『株の投資大全ーー成長株をどう見極め、いつ買ったらいいのか』(小泉秀希著、ひふみ株式戦略部監修)が発刊された。「ひふみ投信」の創始者、藤野英人氏率いる投資のプロ集団「ひふみ株式戦略部」が全面監修した初の本。株で資産をつくるためには、何をどうすればいいのか? 本連載の特別編として、著者の小泉氏による書き下ろし記事の第2回をお届けする。今後の資産形成の参考にしていただきたい。

【新NISAを100%活かす投資術 第2回】インフレの時代に資産を現金だけで保有して大丈夫?Photo: Adobe Stock

インフレの時代に入り、
現金の価値が大幅に低下する可能性が

 日本では「株は危ない」という株に対する不信感を持つ人が多い。そして、「現金が一番安心」という現金志向が非常に根強い。しかし、これからの時代、本当にそれでいいのだろうか。

 デフレが終わり、インフレの時代が始まったとすると、「現金が一番安心」という常識はもはや通用しなくなる。インフレだと現金の価値が目減りするからだ。

 現金が金(きん)の裏付けがなく、中央銀行の信用だけでいくらでも発行できる時代になって以降、「現金の価値は長期的に下がり続けるもの」となっている。

 政治的に税金は増やしづらく、その代わりに現金の価値を落とすことで財政赤字を補う、いゆわる「インフレ税」で財政を補おうとする方向に政治の力が働く傾向があるからだ。

 現金の価値が下がれば、国民が保有する現金や預金の価値が下がり、国の借金は目減りする。経済学では、このように財政を補うことを「インフレ税」という。

 実際に日本以外の先進国では、1983年以降40年間のデータを見ると、10年でおよそ30%のペースでインフレが進んでいる。1983年に100円だったものは、2023年現在は300円程度になっているのが世界の平均的な状況なのだ。

 それに対して、日本では100円だったものが130円程度にしかなっていない。

日本のコンビニのサンドイッチが
800円になる時代が来る?

 ところが、日本も2022年8月以降、消費者物価指数が前年比3~4%で推移するようになってきた。これは、10年で4割ほど物価が上がるペースだ。

 海外と国内の価格差があまりにも顕著になり、多くの人が、「さすがに日本の物価は安すぎる」と気づき始め、値上げをする企業側も値上げをされる消費者側も値上げへの抵抗感が低くなってきた。

 筆者も昨年の2022年夏に数年ぶりにハワイに行ったとき、コンビニのサンドイッチが800円、スーパーマーケットのごく普通のしゃけ弁当が1500円、ごく普通のレストランのランチが3000円という感じだった。

 日本人の金銭感覚と欧米先進国の金銭感覚には2倍以上の差が出ている。そのことを実感させられた。日本でもそう遠くない将来、このようなインフレ状況に近づく可能性がある。

 また、人手不足が顕著になり、給料を上げなければ必要な人材が確保できなくなってきた。地方ですら時給1000円以下では、なかなかバイトが集まらないという。外資の人気スーパーが地方でも平気で時給1500円を出し、優秀なバイト要員を奪っていく状況だ。日本でも時給1000円以下で人を雇える時代が終わりつつある。近い将来、バイトの時給相場は1500円前後に上昇していくのではないか。

NISA投資ならインフレから
資産を「守る」と「殖やす」が可能に

 このように、バブル経済崩壊から30年以上が経過して、日本も国際標準並みのインフレの時代に入ってきた可能性が高い。

 そうなると、物価は10年で4割、20年で2倍、30年で3倍近く上がる可能性も出てくる。銀行預金の低金利が続くならば、物価上昇分だけ現金や預金の価値が下がることになる。

 インフレから生活を守るには、仕事で稼ぐ力はもちろん、資産を運用する力をつける必要が出てくる。資産を現金・預金だけで持っていればいい時代は、終わりつつある。

「現金・預金を長期で持つことにはリスクがある」というのは、世界的には常識だ。

 だからこそ、日本以外の先進国の人たちは熱心に投資を行っているのだ。現金で資産を持つよりも、株式のポートフォリオ(さまざまな銘柄に分散投資した資産)を持つ方が長期的には安全であると考えられているからだ。

 実際に、世界のほとんどの国では、長期的に見てインフレより株価の方がはるかに大きく上昇している。高インフレで知られているアルゼンチンやトルコなどでもそうだ。

 日本でも今後、インフレのリスクに対する意識が高まるにつれて、「資産を殖やすための投資」だけではなく「資産を守るための投資」という面が強く意識されるようになり、株や投資信託に投資する人は増えていくだろう。

 新NISAは、そうした動きを強力に後押しするものとなりそうだ。

(※本稿は、書き下ろし記事です)

小泉秀希(こいずみ・ひでき)
株式・金融ライター
東京大学卒業後、日興證券(現在のSMBC日興証券)などを経て、1999年より株式・金融ライターに。マネー雑誌『ダイヤモンドZAi』には創刊時から携わり、特集記事や「名投資家に学ぶ株の鉄則!」などの連載を長年担当。『たった7日で株とチャートの達人になる!』『めちゃくちゃ売れてる株の雑誌ザイが作った「株」入門』ほか、株式投資関連の書籍の執筆・編集を多数手がけ、その累計部数は100万部以上に。また、自らも個人投資家として熱心に投資に取り組んでいる。市民講座や社会人向けの株式投資講座などでの講演も多数。
ひふみ株式戦略部
投資信託ひふみシリーズのファンド運用を担うレオス・キャピタルワークスのメンバーにより構成された本書監修プロジェクトチーム。
ひふみ投信:https://hifumi.rheos.jp/