「見切り発車」の処理水放出、中国の反発は一過性で終わるか東京電力福島第1原発の処理水海洋放出について、全国漁業協同組合連合会の関係者に理解を求める首相の岸田文雄(中央)。手前は経済産業相の西村康稔 Photo:JIJI

「多くのタンクが立っている姿を見て、先送りできないと痛感した」

 2021年10月、首相に就任した岸田文雄は福島県の東京電力福島第1原発を訪れ、保管中の大量の処理水について海洋放出を急ぐ意向を強調した。それから1年10カ月。岸田は最後の断を下した。

 今年の8月21日午後4時前、首相官邸に全国漁業協同組合連合会(全漁連)会長の坂本雅信が姿を見せた。処理水放出について岸田から説明を受けるためだった。岸田は前日の20日、第1原発で処理水放出関連施設を視察したほか、東電社長の小早川智明ら同社幹部と会い、「安全性確保と風評対策」に全力を挙げるよう指示した。

 ところが岸田は処理水放出の影響を直接受けることになる福島漁連の幹部とは会わずに帰郷した。自民党農水関係の実力幹部も苦言を呈した。

「福島で漁連幹部と会えば、わざわざ総理が足を運んで説得に来た、ということになるが、首相官邸で会ったため、呼びつけた印象になってしまった」

 その一方で、会わないことが地元漁連にとっては“助け舟”になるという見方もあった。直接会えば、政府が示す提案に答えを用意しなければならず、この局面では政府に押し切ってもらった方が立場を守れるというわけだ。いわば「強行突破容認」のためには、岸田に会わずにいたという理屈だった。現に東北地方の有力首長の1人は政府に理解を示してきた。

「いつまでも処理水を放っておけないことは誰もが分かっている。国がエビデンス(根拠)に基づいて適切に処理すればいい」