私たちはしばしば、「○○を食べると風邪予防に効く!」といったうたい文句につられがちですが、食と健康を考える時には「食材は、どう食べるかによって良くも悪くもなると知っておくことが重要」と、『健康になる技術 大全』の著者・林英恵さんは言います。
本稿では、ハーバード公衆衛生大学院の教授陣から「日本人のために書かれた最高の書」「世界で活躍するスペシャリストが書いた唯一無二の本」と激賞されている、最先端のエビデンスをもとに「健康に長生きする方法」を明かした本書から一部を抜粋・編集して、じゃがいもを食べる際の要注意ポイントを明かします 。
監修:イチローカワチ(ハーバード公衆衛生大学院教授 元学部長)
*書籍『健康になる技術 大全』の「食事の章」はケンブリッジ大学疫学ユニット上級研究員 今村文昭博士による監修

野菜だと思って「じゃがいもをたくさん食べる人」が知らない“意外な事実”Photo:Adobe Stock

じゃがいもは野菜ではなく炭水化物?

 野菜に関して私も驚いたことがあります。それは、じゃがいもの扱い方です。日本の食事摂取基準では、じゃがいもについての特定の記載はありません。「いも類」としてまとめて扱われています。

 一方、他の国や研究機関では、じゃがいもを野菜の分類から分けているものがあります(*1,2)。イギリスの食事のガイドラインのEatwell Guideでは、「じゃがいもは野菜ではなく炭水化物」と考えるようにと明記されています。また、ハーバード大学の食事ガイドでもあるHealthy Eating Plateでは、「じゃがいもやフライドポテトは野菜とみなしません」と書いてあります。

 1つの研究機関の見解ではあるものの、わざわざ野菜の欄にここまではっきりと記載することに驚きました。私は、揚げたり煮たり、味噌汁に入れたりなど、色々な料理にも合うじゃがいもが大好きなので、正直ショックでした。

じゃがいもには血糖値を上げる働きがある

 このようにじゃがいもに関して様々な見解があるのは、負の側面があるためでしょう。じゃがいもには摂取後の血糖値を上げる働きがあります(*3)。血糖値を上げるような食生活が続くと、糖やエネルギーの代謝が不安定になっていき、特に糖尿病のリスクを上げると考えられています(*4)。心臓の病気や死亡率に関しては強いエビデンスはありません(*5,6)。

 しかし、着目したいのは、特定のメカニズムをまたいだ間接的な推論ではなく、実際にじゃがいもの摂取と疾患のリスクとの関係に関するエビデンスです。じゃがいもの摂取量が多いほど、糖尿病などの疾患や死亡率が高くなるという報告は確かにありますが、実はほとんど欧米の研究です。

 日本をはじめとするアジアの国でのこのような研究は限られており、欧米の結果とは異なっているのです。例えば、イランの研究からは、逆に糖尿病のリスクが低いという結果が報告されています(*7)。

じゃがいもは、「どう食べるか」が重要

 複数の研究の結果をまとめてみると、死亡率や主だった疾患との関係で目立ったものは認められません(*6)。視点を変えてみると、欧米の研究では、研究の質は高くないものの、じゃがいもの食べ方によってもリスクの度合いが異なり、特にフライドポテトとして食べている人ほど、糖尿病や高血圧を患いやすいと報告されています(*8)。

 ちなみに、年間1人あたりのじゃがいもの消費量は、アメリカは51・88㎏、イギリスは103・86㎏、日本人は20・95㎏(*9)。日本人と比べて、アメリカ人で2・5倍、イギリス人に至っては5倍もじゃがいもを食べていることになります。イギリスやアメリカでじゃがいもに関して警鐘を鳴らすのも、彼らのフィッシュ&チップスや、ハンバーガー&フライドポテトに代表されるような食文化や食生活と関係しているのだろうと感じます。

 食と健康を考える時には、栄養素・食品(ここではじゃがいも)という個々の要素に着目した還元論にとらわれず、調理法や食事の環境などを含めた食べ方を常に考えることが大事なのだと思います。

 じゃがいもは、どう食べるかによって良くも悪くもなるという、多角的な視点を持つことの大切さを教えてくれる例だと感じています。じゃがいも好きな人たちは、どのくらいの量を、どのような料理法で食べているのかを見直してみましょう。

(本稿は、林英恵著『健康になる技術 大全』より一部を抜粋・編集したものです)