人的資本経営は、従業員をコストではなく価値創造の源泉と再定義する。従業員のパフォーマンスを上げるには、教育や研修を強化し、能力やスキルの開発を促すのみならず、心身ともに満たされたウェルビーイングへの投資が欠かせない。その基盤となるのが「健康経営®×DX」である。SOMPOグループのヘルスケアベンチャーであるウェルネス・コミュニケーションズは、そのためのプラットフォームを提供している。同社社長の松田泰秀氏に導入効果を聞く。

健康データの可視化で経営課題を知る

 編集部(以下太文字):人的資本経営、人手不足などの理由から、健康経営やウェルビーイングへの関心が高まっています。

ウェルネス・コミュニケーションズ 代表取締役社長
松田泰秀
YASUHIDE MATSUDA
伊藤忠商事に入社後、22年にわたり、国内外において、医療・ヘルスケア関連領域における事業開発・市場開拓に従事。駐在地は、シカゴ、ニューヨーク。2003年には社内ベンチャー制度下で、ヘルスサポートシステム(現Growbase)を企画・開発し、2006年にはウェルネス・コミュニケーションズを設立。2016年より現職。

 松田(以下略):企業の持続的成長に欠かせない従業員とその家族の健康増進を、経営の視点から戦略的に実践するのが「健康経営」です。労働人口が減少する中、働き手の健康維持と未病対策に積極的に取り組むことで、長きにわたって活躍できる環境を整え、業績向上や価値創造につなげることを期待されています。

 企業が消費者やお客様の満足度向上のためにトレンドやニーズを把握するのと同様に、「健康経営」においては、従業員一人ひとりの健康課題を正確に理解することから始まります。つまり、従業員のウェルネス・データ(健康情報)を集め、可視化し、健康課題を把握したうえで、最適な打ち手となる施策を講じていくことが重要だと考えています。

 健康経営を支援するサービスについて、その特徴を教えてください。

 弊社では、全国2000以上の医療機関と提携し、企業や健康保険組合が実施する健診に関する業務を提供するBPaaS型ソリューション「ネットワーク健康診断サービス」と、従業員のウェルネス・データを蓄積・可視化するSaaS型健康管理クラウドサービスの「Growbase」を展開しております。

 特にGrowbaseは、健康診断結果のほか、ストレスチェック結果、残業時間などの就労データ、産業医面談記録などの心と体に関するデータを一元管理・可視化することが可能です。大企業を中心に1500社以上で導入されており、産業医や保健師などの皆様が、このプラットフォームを用いて、従業員一人ひとり、そして、組織の健康づくりを支えています。

 Growbaseは、具体的にどのように活用されているのですか。

 Growbaseは、全国のあらゆる拠点で働く人たちのウェルネス・データを一つのシステム内で、経年管理しており、なかには過去30年分保管している企業もあります。また、多種多様なフォーマットや医療機関ごとに異なる判定記号・単位で示される健診結果を一元化する仕組みを装備しており、データ集計や活用を容易にし、面談や指導対象者の抽出、衛生委員会などで使用するリポートの作成などにも活用可能です。

 大手物流企業センコーグループホールディングス様は、拠点が北海道から九州まであり、運輸業のみならず、外食産業や介護事業、ECショップまでさまざまな事業を展開されています。弊社ではグループ2万4000人の健康データをお預かりして、グループ全体の健康課題を可視化するお手伝いをしています。

 包括的な健康管理体制が整備されると同時に、一般職とドライバー職で判定項目を変えるなど、セグメント別の健康管理が可能になりました。また、グローバル化を推し進めるに当たって、外国人就労者や海外勤務者の健康管理を強化したいとのご要望があり、このためのソリューションを開発中です。

 事業環境の急速な変化や深刻な人手不足に直面する各産業分野では、変革と成長を牽引できる多様な人材の獲得と、すべての従業員が高いパフォーマンスを発揮できる環境を整備していくことが重要であり、そのための健康管理は、上場企業に対し、人的資本の情報開示が義務づけられるようになったことで、株主や投資家、すべてのステークホルダーからの評価にもつながる取り組みといえます。

※「健康経営®」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。