「日東駒専」というくびき

――前回はMARCHについて見ましたが、「日東駒専」はどうなのでしょう。2023年度の志願者数では、5位日本大(9万8506人)、8位東洋大(8万7096人)、25位駒澤大(3万703人)、15位専修大(4万4918人)となっています。

日東駒専が「日大苦境」の始まりか、私大志願者30年の“下克上”【大学入試2024】後藤健夫(ごとう・たけお)
教育ジャーナリスト。1961年愛知県生まれ。南山大学卒業後、河合塾へ。独立して大学コンサルタント。早稲田大学法科大学院設立に参加。元東京工科大学広報課長、入試課長。現在、執筆のかたわら、武雄アジア大学(佐賀県・設置構想中)将来構想実現ディレクターを務めた。 Photo by Kuniko Hirano

後藤 かつては雑誌「私大進学」と同じ出版社が「日大進学」を単独で出すほどでした。それくらい日本大にはパワーがあった。10万人を割れたことは少し寂しいですね。本来的には、明治大や法政大と同じような位置にあってもいいはずなのに、早稲田の受験生があまり併願しなくなり、明治にはなれなかった。

井沢 「蛍雪時代」元編集長の代田恭之(大学通信常任顧問)が「日東駒専」と呼んだことも影響しているのでしょうか。近畿大と異なり、日本大は独立した大学のように学部が分散していて、キャンパスとしての一体感もありません。  

後藤 いまでは保護者も1校3万5000円の大学受験料が出せなくなってきた。併願数が減ると、受験者数も減る。一番割を食っているのが日本大です。

 東日本大震災(2011年)もあり、福島県郡山市にある工学部の志願者減が目立つようになりました。その結果、当時流行り始めていた一つの試験で複数学部の合否判定を求めるような「全学統一方式」を入れざるを得なくなる。理工学部、生産工学部、工学部の「理工系3兄弟学部」の長兄である理工学部が志願者を集め、併願先である他の2学部にも合格者を出させることになりました。

――そんなことがあったのですか。

後藤 独立性が高い日本大ですから、「なぜ、生産工学部や工学部のために志願者を集めないといけないのか」という反対意見もありました。ところが、ふたを開けて見ると、この全学統一方式のおかげで、理工学部の志願者数は4000人も増えました。

 しかし、土木工学科を中心に隆盛を誇っていた時代のポジションにはなかなか戻れないですね。建築学科も、昔は東京大、早稲田大と並び称された名門でしたから。20年ほど前に「MARCH」と言われるようになったときに敗北感が出てしまった。

 ところで、東洋大もどうしちゃったの、という感じがしますね。かつては志願者ランキングの上位の常連だったのに。急ブレーキがかかっていますね。

井沢 東洋大は増加基調にあったこれまでの反動が出たのかなと思います。まだキャンパスを移していますし、いつ大学の改革は終わるのかという感じです。

後藤 バブル経済の時に展開しすぎた郊外のキャンパスを再編するなど、損切りのようなことをやっていますね。それが人口減のペースに追いつけるのか。すべてが白山キャンパス(東京・文京区)周辺に集まっているわけではありません。その点、習志野市に集まっている千葉工大のようにはなれません。

 駒澤大と専修大は、志願者数では比較的上位にありますが、もはや人文・社会学系の時代ではないので、どうしても印象が薄くなっています。

――日本大は、3年連続で私学助成金の不交付が決まりました。「ガバナンス」に問題ありというのがその理由です。今後どうなっていくと思われますか。

井沢 私学助成金が不交付になっても、今すぐ日本大の経営状況が大きく揺らぐことはないでしょう。ただ、医学部や芸術学部など、社会の認知度が高い学部はこれからも人気を維持していくと思いますが、世の中の理系シフトもあり、人文・社会学系は志願者が減少するかもしれません。

後藤 まだ志願者数には大きく影響していませんが、今後、このことが原因となって全入状態への歩みを早めることになるかもしれない点が懸念されます。不交付が続き、これまでの蓄えに手を付けるようになったり、不況が続き消費税が上がったりするなど社会経済が芳しくなくなると、経営的にも苦しくなりますね。

 経営が苦しくなると、新しい手を打てないですから、ずるずると志願者が減っていくことになります。不況が続くと地方からの受験生が減ります。学費には消費税がかからないので、消費税が増税されると支出は増えても収入は増えません。厳しくなりますね。