ビジネスパーソンにとって、自分が手がけたプロジェクトや商品、サービスが大当たりすることほどうれしいことはありません。しかし、市場のトレンドが次々と変化するいま、「これなら絶対に成果が出る」という戦略を立てることは非常に難しくなっています。
そこで今回は、ビジネスの成功法則を「マーケティング」の視点から全解剖した新刊『メガヒットが連発する 殻を破る思考法』の著者で、「ファブリーズ」「綾鷹」「檸檬堂」などを次々に大ヒットさせた伝説のマーケター・和佐高志氏に、斬新なアイデアをつくる思考法について聞いてみました。
(聞き手は『頭のいい人が話す前に考えていること』の著者・安達裕哉氏)

他人のアイデアを「丸パクリするだけの人」とアイデアに「自分の色を出せる人」の決定的な差Photo:Adobe Stock

課題発見能力を高める「3A」という視点

安達裕哉(以下、安達) 『殻を破る思考法』では、マーケティングの「3A」という概念が紹介されていました。4Cや4Pは聞いたことがありますが、3Aとは何を指しているんでしょうか。

和佐高志(以下、和佐) 3Aは、もともとコカ・コーラの分析チームが考え出したもので、以下3つのポイントの頭文字をとっています。

1)Acceptability…受容性/消費者からの受け入れやすさ
2)Availability…配架/店頭にどのように置かれているか
3)Affordability…価格/買い物しやすさ=消費者が「適正だ」と感じる金額か

 この3つの視点で商品を分析すると、「売れていない原因」を浮き彫りにすることができます。

 たとえば、僕が日本コカ・コーラに入ったときに全然売れていなかった「綾鷹」は、美味しさの点では秀でていたものの、3Aという観点では「パッケージがいまいち」「配架が少ない」「価格も高い」というボロボロの状態でした。

 なので、まずパッケージを変えて、CMも作り直し(=Acceptabilityの改善)、さらに価格と配架を適正なレベルに調整(=AvailabilityとAffordabilityの改善)することで、売上を大きく増やすことができました。

 4Cや4Pとの違いは、3Aの場合は「主語が消費者」だという点です。4Cや4Pの主語は、メーカーです。

安達 つまり、消費者を中心にしたマーケティングが可能になるということですね。

和佐 その通りです。しかも、4Cや4Pの要素は3Aにも取り込まれているので、非常に有用なツールなんです。

「イノベーション」に挑戦しない企業の末路

安達 ビジネスの世界では「イノベーションが必要だ」とよく言われますが、イノベーションという言葉だけがひとり歩きしていて、その定義がはっきりしていないように思います。

和佐 私は、「顕在化しているニーズ」に対してアプローチするのがマーケティングで、「潜在的なニーズ」に価値を提供するのがイノベーションだと考えています。

安達 なるほど、とてもシンプルですね。

和佐 さらに、イノベーションは、「持続的なイノベーション」「破壊的なイノベーション」の2種類に分けられます。

 持続的なイノベーションは、既にある製品を改良していくこと。一方で、破壊的なイノベーションは改良ではなく、全く新しい価値を創造することです。

 たとえば、視力改善のために今までどんなイノベーションがあったか。最初は、「レンズ」が破壊的なイノベーションでした。その後、片目から両目用のメガネができて、レンズがだんだん薄くなり、さらにガラス製からプラスチック製になるという持続的イノベーションがあったわけです。

 その次に現れた破壊的イノベーションが、目の中にレンズを入れる「コンタクトレンズ」でした。コンタクトの場合は、ハードからソフト、ワンデーやカラーコンタクトといった持続的イノベーションが起きました。

 それから、レンズによる補強ではなく目の中を変える「レーシック手術」という破壊的イノベーションも生まれています。

安達 破壊的なイノベーションは、まったく新しい市場を生み出すわけですね。

和佐 そういうことです。逆に言えば、持続的なイノベーションにしか目を向けない企業は、長期的に見て組織のクリエイティビティが停滞しますし、時代の波についていけなくなってしまうんです。