「聡明で印象的な研究」の落とし穴

 ただし、ハイノがGRIMテストを使って指摘したように、この実験では参加者の感覚だけでなく、フェスティンガーとカールスミスの数字も矛盾していた。彼らは20人のサンプルの平均を3・08(0~10の整数で作業のおもしろさを評価)と報告しているが、これは、あり得ない数字だ。ほかにもいくつかの平均の値がGRIMテストに合格しなかった。

 認知的不協和は直感的に理解できる有用な概念であり、フェスティンガーとカールスミスの実験は聡明で印象に残るものだった。しかし、長年にわたり彼らの研究を引用してきた大勢の研究者は、あり得ない数字で埋めつくされていることを知っていても引用しただろうか。この件は科学文献から得られた「古典的な」知見、つまり、最も厳密に検証されたと思いたいものでさえ、まったく信頼できないときもあることをあらためて気づかせる。最も重要な部分であるはずの数字やデータが、注目を集めるストーリーをつくるためのまやかしにすぎないのだ。
 数値の間違いは、はるかにリスクの高い科学分野でも、不安になるほど多く見られる。

(本稿は、『Science Fictions あなたが知らない科学の真実』の一部を抜粋・編集したものです)