価値観が多様化し、先行き不透明な「正解のない時代」には、試行錯誤しながら新しい事にチャレンジしていく姿勢や行動が求められる。そのために必要になってくるのが、新しいものを生みだすためのアイデアだ。しかし、アイデアに対して苦手意識を持つビジネスパーソンは多い。ブランドコンサルティングファーム株式会社Que取締役で、コピーライター/クリエイティブディレクターとして受賞歴多数の仁藤安久氏の最新刊言葉でアイデアをつくる。 問題解決スキルがアップ思考と技術』は、個人&チームの両面からアイデア力を高める方法を紹介している点が、類書にはない魅力となっている。本連載では、同書から一部を抜粋して、ビジネスの現場で役立つアイデアの技術について、基本のキからわかりやすく解説していく。ぜひ、最後までお付き合いください。

自分がファシリテーター兼参加者となってアイデアを生む「ひとりワークショップ」という方法(1)Photo: Adobe Stock

アイデアを求められる日は、突然やってくる

 アイデアが求められる機会は、突然やってきます。

 日頃から準備ができていれば、スイスイとアイデアが出せるのかもしれませんが、前提の知識もなく何から考えていいのかわからない、といった状況も少なくありません。

 たとえば、私の仕事の例で言うと、B to Bのメーカーから、「品質方針をどうつくり、どう運用していくべきか」といった領域の相談を受けたことがあります。

 また突然、研究所に呼ばれて、「こんな新しい発明をしたのだけど、これに何かアイデアを加えて商品化できないでしょうか」という問いを投げかけられたこともあります。

 皆さんは、いかがでしょうか。

リサーチから始めてはいけない

 上司から「こういうことを考えてみたいのだけど」と、意表を突かれるような相談を持ちかけられたり、「新商品の企画を出してもらえるかな」と、突然依頼されたりすることもあるのではないでしょうか。そういう依頼を受けたとき、あなたらなら、まず、何をしますか。

 デスクに座ってPCを前にすると、ついリサーチから入ってしまうのではないでしょうか。おそらく、そういう人がほとんどでしょう。

 でも、それが唯一の正しい方法なのか、私は疑問に感じます。

 リサーチを行えば、類似の商品も見られるし、ライバルについてもわかるし、いまのトレンドもわかります。でも、その前に、その話を聞いたばかりのときは、フラットな生活者に近い「素人」でもあることは、何かのチャンスでもあります。

 もしかすると、知識を頭に入れてしまってからでは気づくことができない、アイデアのヒントを見つけることができるかもしれない。

 リサーチはいつでもできる。だからこそ、先入観がない初動のときにこそ、チャレンジできるアイデアを生む方法はないだろうか、と私はこれまで模索してきました。

「ひとりワークショップ」とは

 ということで、アイデアを生む技術の2つ目に紹介するのは、これまで携わったことがない新しい分野について考えるときに、私が行っている「ひとりワークショップ」です。

 ワークショップと大仰な名前をつけていますが、基本的には、自分の頭の中ですべてが完結するものなので、デスクではなくカフェやファミレス、ときには、ひとりでお酒でも飲みながら行っているものです。

(手順1)ワークシートをつくる

 最初にワークショップの設計を行います。私がよく行うのは、ワークシートをつくり「これを埋めれば企画ができる」という穴埋め文章をつくる方法です。

 このワークシートを上手につくれるかどうかが、ひとりワークショップの肝になってきます。基本形としては、下図のように「課題+手段+目的+1次的成果+2次的成果」という、5つの穴埋めになるようにするのがよいでしょう。

 文章にすると「【課題】に対して、【手段】をして、【目的】というアイデア。その結果、【1次的成果】という成果を生み、それは、【2次的成果】に結びつく」といった形になります。

 もちろん、この構文がすべてではないので、それぞれ求められていることによってチューニングしていけばいいと思いますが、この5つの穴埋めは、なかなか汎用性の高いものだと自負しています。

 前述した「アイデア分解構築シート」に近いように見えますが、こちらは記入する内容もそれぞれ一言ずつくらいのラフなものです。1本の文章をつくるために「穴埋め」をするといったイメージで取り組みましょう。

(手順2)ひとりワークショップ開始

 ワークシートができたところで、実際にひとりワークショップを行っていきます。いきなり、ひとつのワークシートを完成させることを目標にせず、断片でもいいので複数のワークシートをつくることを目指します。

 ですので、パワーポイントなどを使って記入していくときは、ワークシートをスライドごとにいくつもコピーしておいたり、テキストで行うのであれば、この穴埋め構文をいくつもコピーして用意しておきます。

取り組みやすいところから穴埋めをする

 では、やっていきましょう。穴埋めですが、上から順番に埋めていく必要はありません。すでに「与件」となっているものなど、埋めやすいところから取り組んでいきます。

 たとえば、会社の周年事業の企画を任せられたとしたらどうでしょう。

「来年、うちの会社が60周年になるんだけど、なんか企画しないといけなくて、ちょっと考えてみてもらえる?」

 アイデアを依頼されるときには、この例のように課題も、目的も、成果も曖昧なものが多くあると思います。そんなときは、取り組みやすいところから穴埋めをしていきましょう。

 私のやり方としては、あくまでワークショップ風を大事にします。ファシリテーター役の私が「では、課題のところから考えてみましょう」とワークシートを見ながら、心の中で宣言します。

 次に、ワークショップ参加者である私は、目を閉じてその「課題とは何か」について考えはじめます。ファシリテーターと切り替えるために、参加者として考えるときには、目を閉じるようにしています。

 そういえば、経営者が、「一人ひとりが率先して挑戦者になるという文化が失われつつある」ことに危機感を感じていたな、ということを思い出したら、それを「課題」に入れていきます。

 課題とは、問題のある現状と理想の姿の差分ですので、「かつてあった一人ひとりが率先して挑戦者となる風土を取り戻す」となります(下図)。

 ひとつ埋まったところで、またファシリテーター(の私)が出てきて「次は、どこが考えやすいですかねえ」と心の中でつぶやきながら、ワークシートを眺めます。ひとつ埋まっていると、他も埋めていけそうです。

 風土とは、企業の性格のようなもので容易につくることはできませんが、その形成に資するものを周年プロジェクトの2次的な成果に置いてみたいと思います。わかりやすく、新製品やサービスにしてみます。

「(社員の挑戦から)新しい製品やサービスが次々と生まれること」といったん置いてみましょう(下図)。

 この「いったん置いてみる」ということが大事です。100点を目指すと時間がいくらあっても足りませんから、60点くらいの納得度であれば、穴埋めしてしまうことがポイントです。後でいくらでも直せばいいのですから(この項、つづく)。

(※本稿は『言葉でアイデアをつくる。 問題解決スキルがアップ思考と技術』の一部を抜粋・編集したものです)

仁藤 安久(にとう・やすひさ)
株式会社Que 取締役
クリエイティブディレクター/コピーライター
1979年生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒業。同大学院政策・メディア研究科修士課程修了。
2004年電通入社。コピーライターおよびコミュニケーション・デザイナーとして、日本サッカー協会、日本オリンピック委員会、三越伊勢丹、森ビルなどを担当。
2012~13年電通サマーインターン講師、2014~16年電通サマーインターン座長。新卒採用戦略にも携わりクリエイティブ教育やアイデア教育など教育メソッド開発を行う。
2017年に電通を退社し、ブランドコンサルティングファームである株式会社Que設立に参画。広告やブランドコンサルティングに加えて、スタートアップ企業のサポート、施設・新商品開発、まちづくり、人事・教育への広告クリエイティブの応用を実践している。
2018年から東京理科大学オープンカレッジ「アイデアを生み出すための技術」講師を担当。主な仕事として、マザーハウス、日本コカ・コーラの檸檬堂、ノーリツ、鶴屋百貨店、QUESTROなど。
受賞歴はカンヌライオンズ 金賞、ロンドン国際広告賞 金賞、アドフェスト 金賞、キッズデザイン賞、文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品など。2024年3月に初の著書『言葉でアイデアをつくる。 問題解決スキルがアップ思考と技術』を刊行する。