衆院の小選挙区定数を「0増5減」する新区割り法案が、衆院本会議で自民、公明の連立与党の賛成多数により可決された。審議拒否していた野党は、本会議に出席して反対した民主党と、欠席した日本維新の会に分裂し、共闘できなかった。野党が多数を占める「ねじれ国会」の参院では、法案可決がより難しいと思われるが、与党は衆院の3分の2以上の賛成による再可決で成立させることを視野に入れている。
4月17日の党首討論で、安倍晋三首相と海江田万里民主党代表の選挙制度改革についての論戦があった。安倍首相が野党の審議拒否を批判し、「昨年11月の党首討論で野田佳彦前首相がやろうと言った。私はそれに応えた。この場で政治は動いた。この場で政治を動かそう。一票の格差是正を進めようという国民の声に応える責任がある。やろうじゃないか」と述べたのに対し、海江田代表は「定数削減が一番大きな約束だ。0増5減だけでは違憲になる。定数削減をやると言ってください」と反論した。
一見、アベノミクスの狂騒で勢いのある安倍首相に分があるようだが、海江田代表の主張のほうが正しい。党首討論での野田首相(当時)発言は「『定数削減』を確約すれば、16日に衆院を解散してもいい」だったからだ(第48回を参照のこと)。野田首相・安倍総裁(当時)の約束は明らかに「『0増5減の格差是正』と同時に『定数削減』を行う」だった。安倍首相の微妙に論点をすり替えて格好をつける「悪い癖」がまた出たようだ(第45回を参照のこと)。
安倍首相は、またしても指導力を発揮しなかったとも言える。「0増5減」以上の定数削減に踏み込めないのは、公明党が「比例代表の拡大」か「中選挙制の復活」を目指しており、自民党内にも中選挙区論者がいるからだ。連立与党内の調整が困難だから、格好をつけてごまかしているのだ。
野党側も問題である。比例代表の削減には、民主党以外の中小政党は反対であり、共闘が組めないからだ。結局、「定数削減」を主張して、改革に真摯に取り組んでいるように見せようとしても、これも政治的思惑で言っているに過ぎない。所詮、選挙を恐れる政治家には、選挙制度改革を考えることはできないというのが、悲しい現実だ。