日銀が4月に「異次元緩和策」を導入して以来、ドラギECB総裁はメディアから「日銀やFRBのような大胆な政策を行わないのか?」とプレッシャーをかけられてきた。6月6日の記者会見で彼は次のような反論を見せた。「率直に言って、ECBは市場のボラティリティを高めることはしていない」。日銀とFRBの政策は、金融市場に望ましくない変動をもたらしているではないか、という皮肉である。
重ねて次のようにも言っていた。「われわれは他の中央銀行と異なり、ボラティリティを生み得る決定を行わずにバランスシートを徐々に縮小することができている。これは自動的なプロセスであり、デフレ的ではない」。
2011年12月からECBが2回実施した3年物LTRO(長期資金供給オペ)で銀行は計1兆0187億ユーロもの資金を借りた。当時、欧州の銀行は風評被害もあって資金繰りに四苦八苦していた。このオペは必要がなくなれば期間中でもECBに返済できる。最近の欧州の銀行の状況は大幅に改善したため、LTROを返済したがる銀行が相次いでいる。
ECBのバランスシートは1年前より15%縮小したが、銀行が不必要と感じる超過準備を自発的に減らしただけなので、市場で金利変動が激しくなるようなことは起きていない。ドラギは、FRBが“QE3”(量的緩和第3弾)の縮小をめぐって市場との対話で苦労しているのを意識しながら、暗に自分たちのやり方のほうが優れているとアピールしていた。
日銀は6月の金融政策決定会合で現状維持を決めた。長期金利にはいったん落ち着きが見られるようになったため、新たな国債市場安定化策の導入は見送られた。しかし、バーナンキFRB議長が“QE3”縮小に関する市場の期待の制御に失敗すると、それが飛び火して日本の長期金利も暴れ始める恐れがあるため注意が必要だ。
ところで、ユーロ圏では若年層の4人に1人が失業中で、それが社会問題となっている。一方、日本のそれは6%台だ。欧州から見れば羨望の低さである。また、日本はデフレといっても極めて緩やかなペースにとどまってきた。それ故、欧州当局者の目には、「なぜギャンブルのような金融緩和策を日本は行うのか?」と不思議に映るケースが実は多い。ギャンブルに終わらせないよう、日本は地道に構造改革に取り組んでいく必要がある。
(東短リサーチ代表取締役社長 加藤 出)