安倍政権は人類が共有すべき普遍的価値である自由と民主主義をおびやかす、21世紀になって現れた新たな「敵」なのかもしれない。フランシス・フクヤマにいわせれば、20世紀には自由と民主主義をおびやかした2つの敵——ひとつはファシズムであり、もうひとつは共産主義——のうち、前者は第2次世界大戦において抹殺され、後者はソ連の崩壊をもって自壊したはずだ。

 ヨーロッパ諸国でも、極右政党が国政選挙でかなりの票を集める。もっとも有名なのはフランスのジャン=マリー・ル・ペン(1928〜)である。2000年の大統領選挙では、得票率でジャック・シラク(1932〜、大統領在任1995.5〜2007.5)にせまる勢いを示した。ルペンを支持したのは、失業者、肉体労働者、若者だった。このことが示唆するのは、経済的沈滞により苦しめられる人びとが、極右政権を待望することである。ルペンは自他ともに許すファシストである。

 安倍はファシストではないにせよ、この国の自由と民主主義をおびやかしつつあることは事実である。もっかのところ、国家資本主義的なアベノミクスに専念しており、経済的自由をおびやかすにとどまる。だが、13年7月の参院選での圧勝をへてのち、かりにアベノミクスが成功裏に進捗しておれば、個人の自由と民主主義をおびやかす憲法改正へと歩を進める可能性が高い。そうなれば、私たちの憂鬱はいや増すことだろう。


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経済無策からポピュリズムへ――。
アベノミクスのねらいは、小泉構造改革との決別、そして国家資本主義の復活なのだ。

 アベノミクスは官主導色が強いという意味でケインズ派的である一方、規制改革にも熱心なところは新古典派的でもある。その本性は「国家資本主義」にあり、個人主義や自由主義、民主主義という普遍的な価値を脅かす憲法改正への通過点かもしれない。

 空前絶後の壮大な社会実験であるアベノミクスの是非を考えるうえで、“道案内役”を果たす1冊だ。

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