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田岡俊次の戦略目からウロコ

「ペット」エジプト軍の暴走に
「飼い主」アメリカの大いなる困惑

田岡俊次 [軍事ジャーナリスト]
【第5回】 2013年7月11日
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エジプトでは軍がクーデターで政権を掌握した。エジプト軍の装備の主体は米国製で、毎年巨額の援助を受ける米国依存。米国はクーデターは容認できず、さりとてイスラム政権の復活も困る、という苦しい立場に立たされた。

 日本のテレビや一部の新聞は7月3日に起きたエジプト軍による政権奪取を「事実上のクーデター」と奥歯にもののはさまった様な表現で伝えた。軍が大統領を拘束し、憲法を停止し、与党の自由公正党や支援団体の幹部300人の逮捕を開始し、テレビ局6局を閉鎖する、などの行為は、まごうかたなきクーデターだ。それを「事実上の」と言うなら、今後の犯罪報道でも「事実上の強盗事件」などとせねばなるまい。

オバマ大統領の微妙な言い回し

 この妙に遠慮した表現が生じたのは、米政府がエジプト軍の行動を非難しつつも「クーデター」という語を使用していないためで、日本メディアが米国に追従する傾向を如実に示した例だ。NSAによる世界的な盗聴、コンピュータ侵入などを内部告発した人物を日本のメディアが「スノーデン容疑者」とするのもその伝だ。それなら米国などへの亡命者も、本国で違法行為の疑いが出ていれば「容疑者」と書くべきだろう。米国の自己中心的な価値観や表現を、日本のメディアが金科玉条とするのは卑屈の感を免れない。

 クーデターの発生直後、オバマ大統領は「ムルシ大統領を退陣させ、憲法を停止したエジプト軍の決定を深く懸念する」との声明を発表し、ムルシ氏や支持者を不法に拘束せず、民主的な選挙で選ばれた政府に早急に権限を移行すること、平和的な集会や自由で公正な裁判の権利を保障することをエジプト軍に求めた。

 その一方で「クーデター」の単語を避け、選挙で選ばれたムルシ大統領側に政権を「戻せ」とは言わず、政権の「移行」を語っているところがミソだ。クーデターであることを認めればエジプト、特にその軍に対する援助は米国内法上停止せざるを得ず、きわめて親米的なエジプト軍は部品が来ないとほぼ行動不能となる。また、もしムルシ大統領やその出身母体のイスラム同胞団が政権を奪回すれば、軍人の多くが反乱罪で処刑されかねず、米国は30年余育ててきたペット、エジプト軍を失うことになりかねないためだ。

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田岡俊次 [軍事ジャーナリスト]

1941年、京都市生まれ。64年早稲田大学政経学部卒、朝日新聞社入社。68年から防衛庁担当、米ジョージタウン大戦略国際問題研究所主任研究員、同大学講師、編集委員(防衛担当)、ストックホルム国際平和問題研究所客員研究員、AERA副編集長、編集委員、筑波大学客員教授などを歴任。動画サイト「デモクラTV」レギュラーコメンテーター。『Superpowers at Sea』(オクスフォード大・出版局)、『日本を囲む軍事力の構図』(中経出版)、『北朝鮮・中国はどれだけ恐いか』など著書多数。


田岡俊次の戦略目からウロコ

中国を始めとする新興国の台頭によって、世界の軍事・安全保障の枠組みは不安定な時期に入っている。日本を代表する軍事ジャーナリストの田岡氏が、独自の視点で、世に流布されている軍事・安全保障の常識を覆す。さらに、ビジネスにも役立つ戦略的思考法にも言及する。

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