世の中には「わかっちゃいるけど……」ということが多々ある。長年親しんできた生活習慣を変えることもその一つ。先月、医学誌の「脳卒中(Stroke)」に「生活習慣を“ちょっと”変えるだけで、脳卒中の発症リスクが大きく下がる」という研究報告が載ったのだが……。

 同報告は米バーモント大学の内科学チームらによるもの。45歳以上の米国在住の黒人、白人、約2万3000人を対象に米国心臓協会(AHA)が推奨する7つの生活習慣の指標を使って、脳卒中の発症リスクを検討した。

 AHA推奨の「よい」生活習慣は「Life's Simple 7(LS7)」と呼ばれている。すなわち、(1)運動、(2)コレステロールの管理、(3)より健康的な食事、(4)血圧を適正に保つ、(5)適正な体重の維持、(6)血糖値を下げる、(7)禁煙、の7つのこと。なぁんだ、常々健康診断で言われていることじゃないか、と拍子抜けしてしまうが、これが侮れない。

 研究では約5年間の追跡期間中、432人が脳卒中を発症した。LS7から見た生活習慣の評価を0~4の不十分、5~9の平均的、10~14の最適に3分割。それぞれの発症リスクを調べたところ、LS7スコアが1ポイント上がると、脳卒中の発症リスクが8%低下することが示された。LS7が不十分な人と比べ、最適な人は発症リスクが48%も低下し、平均的な人でも27%低下した。特に顕著なのは血圧値との関連で、血圧管理が最適な人は不十分な人よりも60%発症リスクが低下していた。また、非喫煙者、あるいは1年以上前に禁煙していた場合は、発症リスクが40%低下した。

 研究者によれば「スコアと脳卒中発症との関連は人種間での差は認められず」、LS7の総合的な脳卒中予防効果は、人種に関係なく発揮されると証明された。

 米国の「最適」な数値は日本の基準値とは若干異なるが、週に150分以上の運動、血圧は120/80mmHg未満に、総コレステロール値は200mg/dL未満に、などが推奨されている。

 いや、わかっちゃいるんですけどね……。

(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)

週刊ダイヤモンド