ダイヤモンド社のビジネス情報サイト
田岡俊次の戦略目からウロコ

戦後の世界史に見る領土問題
経済的な成功と領土は無関係

田岡俊次 [軍事ジャーナリスト]
【第6回】 2013年7月25日
著者・コラム紹介バックナンバー
1
nextpage

 参議院議員選挙でも大勝した安倍政権にとり、TPPと並ぶ今後の最大の外交課題は対中韓関係だろう。米国からも中国、韓国との関係修復を求められているが、中国が尖閣問題の「棚上げ」(すなわち日本が実効支配している現状の黙認)を言っても、日本政府は「領土問題の存在を認めることになる」と硬い姿勢を変えず、これでは交渉はできそうにない。外務省は自分の出番を潰した形だ。

 この問題で日本の対中輸出は昨年の前年比マイナス10.4%、約1.7兆円の減だ。欧州の不況などで中国の成長は鈍ったとはいえGDPは昨年7.8%伸び、中国全体の輸入は4.3%増えている。日本がその最大の輸出市場の中国でシェアを韓国、米国、台湾に奪われつつある形勢で「成長戦略」の足カセともなりそうだ。

農耕時代になって争いが激化

 安倍総理も米国に言われるまでもなく、関係修復の必要性は十分分かっていても、右傾世論の反発を恐れて妥協的姿勢は示せないのだろう。テリトリー争いは人類だけの本能でなく、全ての動物、サルでもアリでもそれで争うだけに、領土問題は根深い本能を呼び覚まして激しい闘争になりがちだ。第1次世界大戦(死者約1500万人)、第2次世界大戦(死者3500万人~6000万人)も領土問題が原因だ。

 人類は狩猟、採取経済の時代にも他の動物と同様に、エサ場を巡って争っていただろうが、考古学者によると、農耕時代になって一挙に争いは激しくなったようだ。狩猟や漁労では、仮に縄張りを2倍にしても獲物が2倍とれるとは限らず、技量(腕前)の方が問題だ。他人が縄張りに入るとケンカになり、追い出すことはあっても、縄張りを際限なく拡大する意欲は生じなかったろう。

 だが、農耕では耕地面積と収量はほぼ比例するし、畑の作物や食料庫など守るべきものも出て来る。食料の供給が安定して人口も増えるから、一部の者が弓や槍で武装して巡回し、その兵力で他の部族を追い払って耕地を拡大することになったらしい。日本でも縄文時代の石の矢尻は鳥や小動物に刺さって抜けないように、三角形の小型だが、弥生時代になると深く刺さるナイフ型で殺人用の矢尻が爆発的に出土し、農耕にはやや不便なはずの丘の上に、堀と柵をめぐらし、櫓(やぐら)を立てた要塞型の環濠集落が出現した。武器、兵士、戦争、国家は農業(牧畜を含む)と共に生まれた。

1
nextpage
関連記事
スペシャル・インフォメーションPR
クチコミ・コメント

DOL PREMIUM

PR
【デジタル変革の現場】

企業のデジタル変革
最先端レポート

先進企業が取り組むデジタル・トランスフォーメーションと、それを支えるITとは。

経営戦略最新記事» トップページを見る

最新ビジネスニュース

Reuters

注目のトピックスPR

話題の記事

田岡俊次 [軍事ジャーナリスト]

1941年、京都市生まれ。64年早稲田大学政経学部卒、朝日新聞社入社。68年から防衛庁担当、米ジョージタウン大戦略国際問題研究所主任研究員、同大学講師、編集委員(防衛担当)、ストックホルム国際平和問題研究所客員研究員、AERA副編集長、編集委員、筑波大学客員教授などを歴任。動画サイト「デモクラTV」レギュラーコメンテーター。『Superpowers at Sea』(オクスフォード大・出版局)、『日本を囲む軍事力の構図』(中経出版)、『北朝鮮・中国はどれだけ恐いか』など著書多数。


田岡俊次の戦略目からウロコ

中国を始めとする新興国の台頭によって、世界の軍事・安全保障の枠組みは不安定な時期に入っている。日本を代表する軍事ジャーナリストの田岡氏が、独自の視点で、世に流布されている軍事・安全保障の常識を覆す。さらに、ビジネスにも役立つ戦略的思考法にも言及する。

「田岡俊次の戦略目からウロコ」

⇒バックナンバー一覧