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田岡俊次の戦略目からウロコ

「中国包囲網」は妄想に過ぎない

田岡俊次 [軍事ジャーナリスト]
【第7回】 2013年8月8日
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「中国包囲網」という語が日本の新聞、テレビでしばしば使われるが、現実を見ればこれにはほとんど実体がなく、将来も包囲網を作れる可能性は乏しい。第2次世界大戦前の日本で流行した「八紘一宇」(世界を日本を中心とする一つの家とする)のスローガンと同様の妄想ではあるまいか。

包囲網作りを始めたのは野田政権

 包囲網作りを始めたのは自民党ではなく、民主党の野田政権だ。2010年9月7日、尖閣諸島の日本領海内で中国漁船と日本巡視船が衝突した事件は、米国の『早期解決を望む』との示唆を受けた菅内閣が同月25日、船長を釈放して日中関係は小康状態となった。だが翌2011年9月27日東京で野田首相と会談したフィリピンのベニグノ・アキノ大統領は南沙諸島問題での日本の支援を求め、野田首相は両国の海上保安機関、防衛当局の協力、交流強化を約束した。

 12年4月16日に当時の石原東京都知事車が同諸島の民有地3島を都が購入すると発表し尖閣問題が再燃したが、その騒動のさなかの6月28日、玄葉外相(当時)はフィリピンのデル・ロサリオ外相を東京に招き「フィリピン沿岸警備隊の能力向上」への支援を決めている。1995年から南沙諸島のミスチーフ礁などをめぐり中国と対立しているフィリピンの「沿岸警備隊の能力の向上」を日本が支援するのは、中国から見れば敵対行為に近い。だから野田内閣が12年9月11日に尖閣諸島国有化を決めた際「石原知事が購入して日中間の対立が激化するのを防ぐ目的だ」と説明しても中国は信じず、「まず国有化し、数年後には施設建設、部隊駐留を行う2段構えの戦略ではないか」と邪推し、激しく反発したのも無理はなかった。

 民主党政権の一連の中国包囲網形成戦略を、2012年12月26日に成立した安倍政権は継承、強化し、安倍総理、岸田外相らは中国と隣接するベトナム、ロシア、モンゴルや、島嶼の帰属で中国と対立するフィリピン、マレーシア、インドネシア等の国々、また「共通の価値観」を有するアメリカ、オーストラリア、ニュージーランド等々の諸国を精力的に歴訪して、特に海上での安全保障面での協力を訴えてきた。「船舶航行の自由」とか「新たな協力分野の模索」とか「国際法による平和的解決」などは、どの国にとっても差しさわりが無く、反対すべきことでもないから共同声明に載る。それがあたかも中国に対する包囲網形成に成功しているように日本メディアが報じるのは、外務官僚や首相官邸の「説明」に対抗する程の知識がない記者が多いためだろう。

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田岡俊次 [軍事ジャーナリスト]

1941年、京都市生まれ。64年早稲田大学政経学部卒、朝日新聞社入社。68年から防衛庁担当、米ジョージタウン大戦略国際問題研究所主任研究員、同大学講師、編集委員(防衛担当)、ストックホルム国際平和問題研究所客員研究員、AERA副編集長、編集委員、筑波大学客員教授などを歴任。動画サイト「デモクラTV」レギュラーコメンテーター。『Superpowers at Sea』(オクスフォード大・出版局)、『日本を囲む軍事力の構図』(中経出版)、『北朝鮮・中国はどれだけ恐いか』など著書多数。


田岡俊次の戦略目からウロコ

中国を始めとする新興国の台頭によって、世界の軍事・安全保障の枠組みは不安定な時期に入っている。日本を代表する軍事ジャーナリストの田岡氏が、独自の視点で、世に流布されている軍事・安全保障の常識を覆す。さらに、ビジネスにも役立つ戦略的思考法にも言及する。

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