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「戦後最大の危機到来」で賛否分かれるポールソン財務長官の“実力”

真壁昭夫 [信州大学教授]
【第47回】 2008年9月30日
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 サブプライム問題に端を発した金融市場の混乱によって、米国の大手投資銀行5社のうち、すでに3社が破綻ないしは救済合併によって姿を消すことになった。今後、さらに銀行などの金融機関が破綻することが懸念されており、これまでの一連の動きは、まさに“戦後最大の危機”と呼ぶに似つかわしい状況になっている。

 そんななか、最近金融専門家の間で、ヘンリー・M・ポールソン財務長官に対する評価が分かれている。

 高い評価を与える専門家は、「ゴールドマン・サックスの敏腕経営者の1人として、金融市場の裏も表も知り尽くした同氏だからこそ、AIGの救済策などを上手く実施できた」と指摘する。反対に低い評価を与える市場関係者などは、「リーマン・ブラザーズを破綻させ、AIGを救済するという判断は恣意的」と批判する。

 両法の評価は、それなりに説得力がある。ただ、いかにポールソン財務長官であっても、自分ひとりで全てのことを決めるわけには行かない。当然ながら、意思決定のプロセスでは、米国内の世論やブッシュ大統領の考えを尊重せざるを得ないという事情を理解する必要がある。

 それを勘案すると、やはり「同氏でなければ、もっと重大な局面を迎えていた可能性は高い」と考えるべきだろう。

 むしろ、任期満了が近く、金融にあまり詳しくないブッシュ大統領や、給与水準の高い金融部門に対する「一種の拒否反応」を示す米国内の世論を上手く扱いながら、“戦後最大の危機”を取りあえず、ここまで沈静化させた能力は評価されるべきだ。

事態沈静化に成功するも
米国型ビジネスモデル破綻が露呈

 ただ、その一方で、従来の米国のビジネスモデルが崩れつつあることも確かである。今まで米国は、ファイナンスビジネスによって得た儲けによって、世界中からものを買い集め、国民の高い生活水準を維持してきた。今回の金融危機は、そうした米国のファイナンスを基礎にしたビジネスモデルの限界をさらけ出したのである。

 その混乱を収束する役回りを、かつてファイナンス部門の象徴であったポールソン氏が行うのは、なんとも皮肉なことと言えるだろう。それは、長い目で見ると、「覇権国=米国の終わり」の始まりと言えるだろう。

 米国で子会社の経営に当たったことのある駐在員の多くは、「米国は“モノ作り”には向かない」と指摘する。その理由には、賃金水準が相対的に高いこと、米国人の気質など、様々な要因があるのだろう。

 さらには、あれだけの国土の大きさ、移民が多く文化的な分散が著しいことなど、沢山のファクターが混ざり合っている。ある人が、「米国は、最終的に農業と軍需産業と金融だけの国になる」と指摘していたことを思い出す。確かに、米国で買った車のドアノブの長さが4本とも違っていたことを考えると、感覚的にはよく理解できる気がする。

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真壁昭夫 [信州大学教授]

1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員などを経て現職に。著書は「下流にならない生き方」「行動ファイナンスの実践」「はじめての金融工学」など多数。


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