2月20日から始まった全5回連載では、『自信は「この瞬間」に生まれる』を刊行され、ハーバードで「ベストティーチャー」に選ばれ続けた日本人教授、柳沢幸雄さんに「自信」の秘密を教えていただきます。

最終回となる今回は、「育てる側」から自信について考えていきます。後輩を育てる、部下を育てる、子どもを育てる……。「育てられる側」から「育てる側」になった時、人は誰でも戸惑うものです。

「子どもを育てる場合も、大人を育てる場合も、そこにはまったく同じ法則がある」という柳沢先生に、その秘訣をうかがいます。

「背中を見て覚えろ」では部下は育たない

日本の職場で昔から上司が部下に向かって言うのが、「俺の背中を見て覚えろ」「盗んで覚えろ」。上司はむっつりした顔で黙々と仕事をして、部下はそのマネをするわけです。日本企業の伝統的社員教育なのかもしれませんが、これは「教育」ではありません。

 最近の若手社員は、上の世代から「ゆとり世代」や「宇宙人」と呼ばれて、教えにくい、育てにくいと言われているようですが、みなさんのまわりではどうでしょうか? これまでの社員教育が通用しない部下の出現に、頭を抱えている方もいるかもしれません。

 でも、「言わずに通じた」従来のやりかたのほうが、教育という点から考えると特殊だと言えます。教育とはそもそも「言わなければ通じない」ものだからです。

普通に経験を通して身につけようとしたら何十年、何百年とかかることを数ヵ月、数年で圧縮して伝える。これが教育です。ですから、「俺が30年かけてやったことを、30年かけて身につけろ」というのは、教育ではないわけです。特に、今のように伝えるべき情報が大量にある時代には、向きません。

柳沢幸雄(やなぎさわ・ゆきお)
東京大学名誉教授。開成中学校・高等学校校長。シックハウス症候群、化学物質過敏症に関する研究の世界的第一人者として知られる。1947年、疎開先・千葉県市川市の母の実家で出生。1971年、東京大学工学部化学工学科を卒業後、日本ユニバック株式会社にシステムエンジニアとして勤務し、激務のかたわら、週15時間英語の勉強に打ち込む。1974年、水俣病患者を写したユージン・スミスの写真に衝撃を受け、化学工学を勉強すべく、東京大学大学院工学系研究科の修士課程・博士課程に進学。この頃、弟と一緒に学習塾の経営を始める。東京大学工学部化学科の助手を経て、1984年にハーバード大学公衆衛生大学院環境健康学科の研究員の職を得て、家族を連れ渡米。その後、ハーバード大学公衆衛生大学院環境健康学科の助教授、准教授、併任教授として空気汚染の健康影響に関する教育と研究に従事、学生による採点をもとに選出される「ベストティーチャー」に数回選ばれる。1999年、東京大学大学院新領域創成科学研究科環境システム学専攻教授に就任。2011年より現職。