東芝が原子力事業でため込んでいた“膿”が、ついに噴き出した。社運を懸けたビッグプロジェクトで、最大600億円規模の減損リスクが顕在化しているのだ。
「投資回収が可能というなら、新たな出資者が現れるという明確なエビデンス(根拠)が必要だ」
あるときは東芝本社の一室、あるときは川崎の新拠点の一室で――。この1年間、あるプロジェクトをめぐって、東芝の担当者たちと居並ぶ会計士たちとの緊迫したやりとりが、水面下で何度も繰り返されてきた。そして、東芝は会計監査人の新日本監査法人から、冒頭の主張を繰り返されてきた。
そのプロジェクトの将来性をめぐり、東芝は新日本と意見が対立。「現状では投資回収の見込みが低い」とし、減損処理を迫る新日本に対して、東芝は反論材料をかき集めて必死の抵抗を試みていた。
それもそのはず、問題案件は出資と融資の累計で約600億円を投じた一大プロジェクト。新日本の主張を押し返せなければ、2014年3月期の通期決算に、数百億円規模の影響を与えかねない重大案件だったからだ。
両者の攻防は熾烈を極める。通期決算を締める大詰めを迎えた4月上旬の段階でも、互いの議論は平行線をたどったままだった。
その間、東芝は3月に株の配当予想を公表しているが、「実際に減損になれば配当への影響は免れない。そんな中での見切り発車」だと、東芝関係者は明かす。
ある東芝幹部は、本件について「決算前なのでいろいろなことを話しているのは事実」と具体的な言及は避けたが、否定しなかった。本稿執筆の4月22日時点で、東芝と新日本は通期決算の会計監査の最終段階に入っているとみられ、減損の有無の判断と、減損の場合は約600億円に上る投下資金の何割を損失として計上すべきかという判断について、詰めの作業を行っているもようだ。
事情に詳しい関係者によれば、「減損は避けられそうになく、金額をいかに小さくできるかの戦い」という声も漏れ伝わる。減損となれば、現金の支出こそ伴わないがバランスシートが傷む。他の重電メーカーと比べて財務の健全性に劣る東芝にとっては大問題だ。