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田岡俊次の戦略目からウロコ

安保法制懇が挙げる「グレーゾーン」は存在せず。
首相のメンツを保つための苦肉の策

田岡俊次 [軍事ジャーナリスト]
【第28回】 2014年5月15日
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集団的自衛権を巡る議論のなかで、突如として、自民党や安保法制懇から「グレーゾーン」という事例が持ち出されてきた。だが、それぞれのケースを検証すると、すでに対応はなされており、グレーゾーンはグレーではない。現行の法制度でも行えることをあえて「グレーゾーン」とか「集団的自衛権行使」と称するのは、集団的自衛権行使に執着する安倍総理の面目を保ちつつ、公明党も反対しにくい事例を探し求めた苦肉の策か、とも思われる。

自衛隊の治安出動は認められている

 集団的自衛権を行使するための憲法解釈の変更に対しては公明党のみならず、自民党の一部にも懐疑的な見方が出ているため、自民党には集団的自衛権行使と関係しない防衛法制上の問題点を「グレーゾーン」として、まずそれに対する法整備を先行させるべきだ、との論が出ている。だが、これまで報道されたその事例は現行法制で対処できるものでグレーゾーンの存在は怪しい。安倍首相のお友達を集めた「安保法制懇」の“有識者”も防衛関係の法令や自衛隊の実情を承知していないのか、と首をかしげたくなる。

 これまでに喧伝された「グレーゾーン」の第一の例は「武装漁民などが離島に上陸した場合」で海上保安庁や警察の手に余るような状況でも、外部からの武力攻撃、とまでは言えないから「自衛隊は防衛出動ができない」と言う論だ。

 だが、これを唱える人々、またそれをオウム返しに報じるメディアは、自衛隊法78条の「治安出動」を知らないのか、あるいは意図的に無視した、としか思えない。第78条は「内閣総理大臣は、間接侵略その他の緊急事態に際して、一般の警察力をもっては、治安を維持することが出来ないと認められる場合には、自衛隊の全部又は一部の出動を命ずることが出来る」と定め、出動を命令してから20日以内に国会の承認を求めなければならない、としている。

 その89条2項には武器使用は刑法の正当防衛、緊急避難に当たる場合のほか「部隊指揮官の命令」による武器使用を認めている。また第90条3項には「小銃、機関銃、砲、化学兵器、生物兵器、その他、その殺傷力がこれらに類する武器を所持、又は所持していると疑うに足りる相当の理由がある者が暴行又は強迫をし又はする蓋然(がいぜん)性があり、武器を使用するほか、他にこれを鎮圧し、又は防止する適当な手段が無い場合」に武器を使用することができる、と定めている。

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田岡俊次 [軍事ジャーナリスト]

1941年、京都市生まれ。64年早稲田大学政経学部卒、朝日新聞社入社。68年から防衛庁担当、米ジョージタウン大戦略国際問題研究所主任研究員、同大学講師、編集委員(防衛担当)、ストックホルム国際平和問題研究所客員研究員、AERA副編集長、編集委員、筑波大学客員教授などを歴任。動画サイト「デモクラTV」レギュラーコメンテーター。『Superpowers at Sea』(オクスフォード大・出版局)、『日本を囲む軍事力の構図』(中経出版)、『北朝鮮・中国はどれだけ恐いか』など著書多数。


田岡俊次の戦略目からウロコ

中国を始めとする新興国の台頭によって、世界の軍事・安全保障の枠組みは不安定な時期に入っている。日本を代表する軍事ジャーナリストの田岡氏が、独自の視点で、世に流布されている軍事・安全保障の常識を覆す。さらに、ビジネスにも役立つ戦略的思考法にも言及する。

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