半導体市場でいま、影の主役として君臨しているのが英ARMだ。スマートフォンに搭載される半導体の約9割にARMの技術が使われるなど、圧倒的な存在感を誇っている。知られざる黒子企業に迫った。(「週刊ダイヤモンド」編集部 大矢博之)

 米アップルの「iPhone」や「iPad」、韓国サムスン電子の「ギャラクシー」にソニーの「エクスペリア」、任天堂の「ニンテンドー3DS」──。

 いずれも世界で数千万台以上販売されている各メーカーの目玉製品だが、実は共通点が存在する。半導体の心臓部に、とある企業の技術が使われているのだ。

 半導体の業界関係者以外には耳慣れない名前かもしれないが、その企業こそが、英ARM(アーム)である。ARMはいま、半導体の業界地図を塗り替えるほどの存在感を誇っているのだ。

 半導体産業の主役としてまず思い浮かぶ企業は米インテルだろう。パソコンのCMでおなじみの「インテル入ってる」のキャッチコピーそのままに、文字通り、流通するパソコンの大部分にインテルの半導体は搭載されている。

 だが、電機産業の成長軸がパソコンからスマートフォンに移行したいま、主役の座に就いたのはARMである。ARMの技術を使った半導体はスマホの実に9割に搭載され「デファクトスタンダード(業界標準)になっている」(大手半導体メーカー幹部)。まさにスマホ版の「ARM入ってる」の状況になっているのだ。

 スマホの9割に搭載されているとはいえ、ARM自身は半導体の製造・販売を手掛けていない。

 ARMは半導体の心臓部であるCPU(中央演算処理装置)の設計に特化し、その“設計図”を半導体メーカーに提供する。つまり、IP(知的財産)を武器とする企業だ。各メーカーはARMのCPUのほか、通信や画像処理などの機能も付け加えて半導体全体を設計し、製造・販売する。