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終末期患者の山で髪を振り乱す「嘆きの天使たち」
准看護師を蝕む“看護師業務拡大”の重すぎる課題

小林美希 [労働経済ジャーナリスト]
2014年5月28日
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夜間は准看護師と介護職の2人だけ
重篤患者ばかりの病棟を駆け回る日々

 「他の病棟の看護師を探せ!」

 ナースコールやアラーム音が鳴り響く深夜の一般病棟で、准看護師の佐藤明美さん(仮名・50代)は思わず叫んだ。

 都内の中小病院A(約250床)で働く佐藤さんは、夜勤の間、介護職の三浦幸子さん(仮名・50代)との2人体制で、病棟にいる約40人の患者を看なければならない。介護職は医療行為ができないため、三浦さんは「患者の点滴がなくなった」と佐藤さんに知らせたが、佐藤さんはそれどころではなかった。

 痰の出る患者は、一歩間違えば息ができなくなって命の危険がある。気管切開をしている患者の痰の吸引を1人で次々にこなし、急変した患者のもとに駆け付けるなど、何人もの患者の対応で手一杯だったのだ。

 佐藤さんが勤める病院は、一般病棟、医療療養病棟、介護療養病棟を擁する、地域に根付いた「慢性期」病院。病院には、急性期、亜急性期、慢性期などに対応する機能があり、急性期の患者には手術などの命の危険を脱するための治療を、命に関わる危険がない亜急性期の患者には回復に向けた治療を、病状が(不健康な状態で)安定している慢性期の患者には、生活や退院に向けてのケアを施している。

 A病院は、本来は病状が安定した患者が入院する病院だったが、今では命にかかわるような状態の患者が増えている。そのため、慢性的な人手不足の中で、看護師は息つく暇もなく、髪を振り乱すようにして患者の対応に追われている。

 A病院にリスクの高い患者が増えた背景には、診療報酬の改訂など医療制度の変更がある。高度な医療を提供する病院では、短期で集中治療を行い、命の危険を脱すれば他の病院に転院することになる。入院期間が長くならないよう、在宅医療にシフトする流れができつつある。

 当然、その流れをつくるのは、病院の収入源となる診療報酬の保険点数。言い換えれば、高度な機能をもつ病院ほど、患者を早期に退院させると“儲かる”仕組みになっているため、大学病院や地域の中核病院などでは、患者が治り切らないうちに他の病院に転院させているのが実態だ。

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小林美希 [労働経済ジャーナリスト]

こばやし・みき/労働経済ジャーナリスト。1975年生まれ。株式新聞社、毎日新聞エコノミスト編集部を経て、2007年よりフリー。労働問題を幅広く取材。『ルポ 正社員になりたい~娘、息子の悲惨な職場』(影書房)『ルポ “正社員”の若者たち~就職氷河期世代を追う』(岩波書店)『看護崩壊』(アスキー新書)『ルポ 職場流産~雇用崩壊後の妊娠・出産・育児』(岩波書店)『ルポ産ませない社会』(河出書房新社)』など著書多数。


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