これまで多くの中小企業にとってITは業務の省力化や経費削減などのツールとして、コアビジネスや経営戦略にうまく活用できていなかった。だが、スマホやクラウドが急速に普及する今日、IT活用に向けた現場や経営者の意識も変わりつつある。中小企業のIT動向に詳しいノークリサーチの伊嶋謙二氏に経営者が取り組むべきポイントを聞いた。
ITに不満がないことが
中小企業経営者の一番の問題
ノークリサーチ 代表取締役社長
1956年秋田生まれ。矢野経済研究所でIT産業の調査・研究業務に従事した後、1998年にIT調査会社ノークリサーチを設立。中堅・中小企業(SMB)市場のIT調査を得意とし、SMBのIT利用実態に詳しい。さまざまな関連業界誌で積極的な執筆も展開中。
中小企業であってもITを導入していない企業はない。だが、ITを経営で十分に活用していると言い切れる企業は果たしてどれだけあるだろうか。経営戦略の立案や迅速な意思決定など経営課題の解決にITが貢献できているかといえば、多くの中小企業が「NO」と答えるに違いない。そもそも、「中小企業の経営者の多くは、ITにそれほど大きな期待を持っていません。期待してないから不満も少ない。これが一番の問題なのです」とノークリサーチの伊嶋謙二氏は指摘する。
多くの中小企業にとってITはあくまで業務の省力化や経費削減のツールであり、企業成長の原動力となるコアビジネス(本業)の遂行にITが関与することはあまりないという。その結果、IT活用による「成功体験」が乏しいのが実情だ。
そして、「中小企業のITはコピー機と同じ。OAのツールとして存在しています」と述べる。例えば、コピーとFAXなどの複数機能を1台に集約した複合機の導入によって、業務がスムーズになり、オフィスの省スペース化にも貢献する。だが、複合機を導入したからといって経営戦略の遂行やコアビジネスがうまく機能するわけではなく、経営者も複合機にそこまで期待していない。
会計や販売管理などの業務システムについても同様で、システム担当者に任せきりになりがち。その結果、システム担当者は業務システムをトラブルなく安全に運用管理する「お守り」が主な仕事になる。そこからは企業戦略のために新たなITを企画・立案するといった「攻め」の姿勢はなかなか出てこない。これが中小企業のIT活用の課題だという。
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だが、最近はITに関わる中小企業の姿勢も少し変化が現われ始めている。その変化を促すきっかけとなるのが「スマホ」だ。ノークリサーチの調査によれば、2013年の中小企業のスマホ導入率は24%で前年比6ポイント増。導入のきっかけは、従業員からの要求や、経営陣からの指示が増える一方、情報システム部門からの発案が減少している(図1)。
企業ITの「お守り」を担ってきたシステム担当者を飛び超え、「営業部門などの現場から『スマホを仕事でうまく使いたい』といった、これまでとは異なるポジティブなIT活用の機運が沸き上がっているのです」と伊嶋氏は分析する。そして、システム担当者に任せ切りだった経営者自身が「トップダウン」でスマホの導入を決断するケースも少なくない。一体、スマホの何が中小企業の現場を、そして経営者の意識を変えようとしているのか。