閖上遺族が名取市に損害賠償を求める裁判開始<br />住民と行政がかみ合わない地域再建の前途多難閖上で続く支援者たちによる側溝捜索。土砂を掘り出し、お骨や遺留品を捜し出す(2014年10月9日) Photo by Yoriko Kato

東日本大震災から3年8ヵ月。大津波襲来時の対応について自治体の責任を問う裁判が10日、また一つ始まった。

訴えを起こしているのは、宮城県名取市内の閖上地区で、生後8ヵ月の長男など家族4人が死亡・行方不明となった夫婦とその親族。遺族は、市の事前対策や当日の避難誘導が不十分だったとして、合計約6800万円の損害賠償を求めている。一方、被告の名取市側は「法的な責任はない」として、請求の棄却を求めて争う考えだ。

遺族「800人のことを踏まえて真相究明へ」
市側「法的責任はない」と争う姿勢

 10メートルを超える大津波に襲われた閖上では、住民の7人に1人にあたる住民の700人以上が亡くなり、今なお40人が行方不明のままだ。地域のほとんどの建物が津波で流出した。

 市は遺族らで構成する「名取市震災犠牲者を悼む会」(相沢芳克会長)の要望を受け、2013年8月から今年3月にかけて、「東日本大震災第三者検証委員会(委員長:吉井博明・東京経済大教授)」を立ち上げ、閖上の惨事を検証した。検証した内容は以下の3項目だ。

(1)津波到達までの70分の市の初動対応や避難誘導、事前対策の策定状況

(2)閖上地区に被害が集中した背景を解き明かすための住民の避難行動

(3)防災行政無線不具合

 今年3月にとりまとめられた最終報告書には、市の事前の防災対策の不備や、当日の対応についての厳しい指摘が並んだ(過去記事「厳しい指摘が並んだ検証委報告案の全容」)。

 仙台地裁(山田真紀裁判長)で行われた10日の第1回口頭弁論では、遺族の1人が意見陳述に立ち、提訴に至った理由をこう訴えた。

「第三者委員会による検証では、被害を大きくした原因や背景として、名取市による地域防災計画の軽視と危機管理能力に対する過剰な自信などが挙げられていますが、まだ解明されていないことや不明なことがたくさんあります」

「このままあの日の真実が分からず、そうした真実をもとにした教訓が生かされないのでしたら、私たちの家族の死は無駄になってしまいます。なぜこんなにも多くの犠牲者が出てしまったのか、その原因と真相を究明することで、これから起こるかもしれない震災で何百、何千の命が救えるようにしたい、そうした思いからやむなく提訴を決意しました」