高齢者ケアの最大の課題と言われるのが認知症である。日本だけでも認知症者は350万人、軽度認知症者を含めると800万人近くに達する。全世界では4435万人。20年後には2倍に増えると言われる。その対策費が膨大になるため欧米諸国では相当の危機感が年々高まっている。認知症はその原因がはっきり分かっていない。根本的な治療法もない。アリセプトなど日本では4種類の薬が処方されているが、いずれも進行を遅らせる効果しか認められていない。では、日本はこれから認知症800万人時代にどのように対応すればいいのだろうか。
国際的「認知症サミット」が東京で開催
世界に後れをとる日本の認知症対応
この11月5、6日の両日、東京で「認知症サミット日本後継イベント」が主要7ヵ国(G7)や世界保健機構(WHO)、EU、OECD、国際アルツハイマー病協会などから担当者が集まり国際会議が開かれた。約300人が出席し、「予防とケア」をテーマに国や諸団体が独自の取り組みを報告した。
昨年12月にロンドンで開催された「主要国(G8)認知症サミット」の後継イベントで、同様の後継イベントが英国とカナダなどで開かれた。サミットは、EUのフランス代表からの提案を受けて実現したもので、EU諸国を中心に今では16ヵ国が国家戦略を掲げている。来年3月にはWHOがジュネーブで初の「世界認知症対策閣僚会議」を開き、世界全体で認知症への対応法を呼びかける。
オランダでは国家レベルでの政策として2004年に「全国認知症プログラム」を始めている。英国は2009年2月にキャメロン首相がリーダーとなり「認知症とともに良き生活(人生)を送る」(Living well with dementia)という認知症国家戦略(A National Dementia Strategy)を発表した。
東京会議では、「Dementia Friendly Community」「Dementia Friendly Society」という言葉が多く発せられ、社会全体として、あるいは国境を超えて取り組むべきだとの論調が会場を包み込んだ。
だが、「新しいケアと予防のモデル」をテーマに掲げた割には、「ケア」への論究が乏しかったのは残念だった。登壇者のほとんどは医師であり、医療からのアプローチが多くなったためだろう。ケアの実践者の報告に対して「エビデンスは?」「経費の削減効果は?」と質す質問が頻出したのはその好例だろう。それに対して「元気になればいい」「日常生活を送れることが肝心」と反論した日本の実践者の言葉が痛快であった。「認知症は予防できる」と発言したロンドンから来た大学教授や、「ケアからキュア」と強調したドイツや英国の行政官の言葉にも違和感が残った。
とはいえ、各国ともケアの現場では先駆的な試みがされており、今回の会議にはそうした実践者がほとんど来日しなかっただけだろう。
6日の会議の冒頭には、安倍首相が出席し「最速で高齢化が進む我が国は、新たな国家戦略を策定したい」と参加国に追い付く姿勢を示し、現行の「認知症施策推進5か年計画」(オレンジプラン)の見直しを指示したと述べた。
だが、日本では認知症者に対して抗精神薬の投与や精神科病院への入院が増大中だ。すでに欧米では「好ましくない対応」としてストップをかけており、その対応は欧米から大きく水を開けられているのが実態だ。であるからこそ、海外での先駆的事例から学ぶべきことは多い。