「財政的幼児虐待」。ドキリとする言葉だが、現役世代が若年層あるいはこれから生まれてくる将来世代に、社会保障費等の財政負担を押し付けることを、世代間会計の観点からボストン大学のコトリコフ教授はそう呼んでいる。

日本では若年層や将来世代に財政負担を背負わせる悩ましさがあまり強く意識されていない
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 日本でこの「財政的幼児虐待」が深刻となりつつある。社会保障や公共サービスを通じて政府から受ける受益と、税金や社会保険料により政府に支払う負担を世代別に推計すると、2005年度の内閣府の試算では、60歳以上の世代は約4000万円の得だが、20代は約1100万円の損だ。さらにそれ以降の将来世代は約8300万円の損となる(参考『アベノミクスでも消費税は25%を超える』小黒一正著)。

 しかし、テレビのニュース番組でやっていた街頭インタビューを見たところ、70代の高齢者も20代の若者も「景気が良くなるまで増税は避けるべきだ」と語っていた。安倍政権は来年の消費税増税の延期と解散総選挙を決めた。景気の状況と長期的な財政健全化のバランスを取ることはある程度は必要だ。しかし、増税を遅らせれば国債発行額が増加し、「財政的幼児虐待」が強まってしまう悩ましさは国民の間ではあまり強く意識されていない。

 米国の有権者の場合、特に共和党支持者は財政上の世代間対立に非常に敏感だ。それを反映して次のような見解が見られる。

 P・G・ピーターソン元米商務長官「本音を言うと、実はこれ(財政赤字)は道徳の問題なのです。自分たちは無償でおいしい思いをして、請求書を子どもたちにこっそり手渡そうとする、そういう考えは、私に言わせると、不道徳極まりないのです」。

 A・リブリン元米行政管理予算局長(元FRB副議長)「赤字を出してはいけない本当の理由は、自分の子どもや孫、あるいはそれが誰であれ未来の納税者に、私たちが今やりたいことの請求書を回すのが公正ではないからです」(参考『I・O・U・S・A』A・ウィギン、K・インコントレラ著)。