湘南の海岸線沿いに位置する住宅地の中で屈指のステイタスを誇るのが、鵠沼海岸に面したこの街である。海水浴がハイソサエティだけの楽しみであった時代には高級別荘地、やがて「お屋敷街」に。そして今も、人々がこの街に抱くイメージは裏切られることはない。街の形成から100年、鵠沼は「いつか住みたい憧れの街」であることを止めたことがないのだ。

 湘南でも独特の「格」を持つ土地海岸沿の住宅地の中で、鵠沼はそこだけ一種独特のムードを持つ街である。といっても、夏場に海水浴客としてしか訪れたことがなければ、この「匂い」のようなものは、なかなか嗅ぎとれないのであるけれども。そう、鵠沼海岸駅から一直線に砂浜を目指す場合には、この街は湘南の他の街と大差ない。

海水浴だけじゃない
鵠沼の本当の素顔

鵠沼海岸
[鵠沼海岸]
左手奥が鵠沼海岸。長い海岸線が続き、晴れた日には富士山を見ることもできる。

 ただし、メインストリートから一本横道にそれると、街並みは表情を一変させる。松に囲まれた広壮な邸宅が珍しくなくなり、「海水浴の街」の猥雑さは消え失せる。湘南屈指の高級住宅地、鵠沼の素顔が見えてくるのである。

 湘南に住む人々にとって、鵠沼という地名は憧れとともに口の端に昇る存在である。俗っぽい言い方をすれば、「いいところにお住まいで」の、まさに「いいところ」である。また、東京の、それも山の手に昔から住んでいるような人にとっては、さらに強い先入観があるに違いない。鵠沼は近所の大金持ちの子供が「夏のおうち」と呼んでいた別荘の場所であったかもしれない。