累計58万部を突破し、2014年最大の話題作となった『嫌われる勇気』。20世紀初頭に活躍した精神科医アルフレッド・アドラーの思想を「哲人」と「青年」による対話篇形式でまとめたこの一冊は、アドラーブームの牽引役的な存在として大きな注目を集めた。いったいなぜ2014年の日本で、これほどまでにアドラーの思想が受け入れられたのか? 今回、共著者である岸見一郎氏と古賀史健氏にたっぷり話を伺った。(聞き手:柿内芳文)
「目からウロコ」
だけではない思想
──『嫌われる勇気』の刊行から1年が経ちました。これまで、累計58万部に達するベストセラーとなっていますが、アドラーの思想がこれだけ受け入れられた要因はどこにあると考えられますか?
哲学者。1956年京都生まれ。京都在住。高校生の頃から哲学を志し、大学進学後は先生の自宅にたびたび押しかけては議論をふっかける。京都大学大学院文学研究科博士課程満期退学。専門の哲学(西洋古代哲学、特にプラトン哲学)と並行して、1989年からアドラー心理学を研究。精力的にアドラー心理学や古代哲学の執筆・講演活動、そして精神科医院などで多くの“青年”のカウンセリングを行う。日本アドラー心理学会認定カウンセラー・顧問。訳書にアルフレッド・アドラーの『個人心理学講義』(アルテ)、『人はなぜ神経症になるのか』(春秋社)、著書に『嫌われる勇気』(古賀史健氏との共著、ダイヤモンド社)、『アドラー心理学入門』『アドラー心理学実践入門』(以上、ベストセラーズ)』、『アドラー 人生を生き抜く心理学』(日本放送出版協会)などがある。
岸見 われわれにとっても予想外のヒットであり、トレンド分析のようなお話はできません。ただ、読者の方々から寄せられる感想は、大きくふたつのパターンに分かれています。
──どのようなものでしょう?
岸見 ひとつは「こんな考え方があったなんて、まったく知らなかった」「常識を覆された」というもの。とにかく驚いた、衝撃だった、目からウロコが落ちた、といった反応です。
古賀 フロイト的な発想からすると、対極にあるような考え方ですからね。
岸見 もうひとつ、おもしろいのが「自分でも薄々感じていたことを、見事に言語化してくれた」「なんとなく思っていたことを、体系立てて説明してもらえた」といった反応です。知らないことばかりが書いてあったというわけではなく、「よくぞ言ってくれた」とか「ものすごく腑に落ちた」に近い感想ですね。
古賀 驚きと共感の両方があったということでしょうか。
岸見 ええ。「常識を覆される」だけでは、これだけ幅広い読者の方々に受け入れてもらえることはなかったと思います。心の奥底で思っていたことを言い当てられる快感、といえるかもしれません。
古賀 その反応はおもしろいですね。
岸見 アドラーの思想は、時代を100年先駆けたといわれています。20世紀初頭に活躍したアドラーが、21世紀の日本で受け入れられるようになった。これは非常に興味深いことです。
古賀 「すべての悩みは対人関係の悩みである」というアドラーの洞察は、SNSなどの隆盛で対人関係が雪だるま式に膨らんでいる現在にこそ、新鮮に響くのかもしれません。しかも、まったく未知の思想として響くのではなく、心のどこかで感じていたことをズバッと指摘してくれたというか。
岸見 その意味では、時代が少しずつアドラーの思想に追いつきはじめたのかもしれませんね。