アドラー心理学の核心を凝縮した『嫌われる勇気』。フロイトやユングと比べると日本では知名度の低かった状況を覆して37万部の大ベストセラーとなり、空前の“アドラーブーム”を巻き起こしています。
そんなアドラーの思想を体現しているのが、ホリエモンこと堀江貴文氏です。堀江氏の著書『ゼロ』は、『嫌われる勇気』の実践編だと捉えることもできます。鼎談の後編は、堀江氏が幼少の頃から抱いていたあるコンプレックスにまで話が及び、アドラーの思想をさらに深掘りする内容になりました。(構成:宮崎智之、写真:田口沙織)

誰かの期待を満たすために
生きてはならない

古賀史健(以下、古賀) 僕が制作チームの一員として『ゼロ』を作っているとき思ったのが、堀江さんは経営者というより、思想家なんだなということです。人間心理だったり、世界に対する真理だったりするようなものを、不器用だけど一つ一つ自分の手で掴みながら前に進んでいるという印象を受けました。

ホリエモンもほれた<br />閉塞した社会を切り開くアドラーの教え堀江貴文(ほりえ・たかふみ)
1972年福岡県八女市生まれ。実業家。元・株式会社ライブドア代表取締役CEO。民間でのロケット開発を行うSNS株式会社ファウンダー。東京大学在学中の1996年、23歳のときに有限会社オン・ザ・エッヂ(後のライブドア)を起業。2000年、東証マザーズ上場。2004年から05年にかけて、近鉄バファローズやニッポン放送の買収、衆議院総選挙への立候補などといった世間を賑わせる行動で一気に時代の寵児となる。しかし2006年1月、証券取引法違反で東京地検特捜部に逮捕され懲役2年6ヵ月の実刑判決を下される。2013年11月、刑期を終了したのを機に著書『ゼロ』を刊行し新たなスタートを切った。

堀江貴文(以下、堀江) すべてのことに正面から向かって行くタイプだから、そう見えたのかもしれません。僕は幼稚園の頃から、周りに対して気を遣って言いたいことも言わないでストレスを溜めるより、言いたいことを言ってぶつかって、その後に仲良くなればいいという思いで生きてきました。そんな生き方をしていたから、批判され続けてきたわけですけど。

岸見一郎(以下、岸見) 仲良くなれるってわかっていればぶつかりますが、普通はそうは思えないです。

堀江 僕の場合、なぜかはじめからそう思ってしまった。自分は過ぎたことを引きずらないから、他人に対しても正直に接したほうが結果として関係がよくなると思ったんです。たとえば、『嫌われる勇気』には、「承認欲求を否定する」という話が出てきますよね。

古賀 「誰かの期待を満たすために生きるのは、他人の人生を生きることである」ということですね。

堀江 はい。当然、僕にも承認欲求はあるんですけど、子どもの頃から承認されない人生を歩んできたので、途中から「承認されることはない」という前提で生きることにした経緯があります。『ゼロ』にも詳しく書きましたが、僕の親はテストで100点を取っても褒めてくれませんでした。それが当たり前だと考えていたんですね。だから次第に両親に褒められなくても、自分が満足してればそれでいいと思うようになりました。だからこそ、「他人も、自分(僕)の期待を満たすために生きてはいないだろう」ということにも気付くことができた。