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だれが「スポーツ」を殺すのか ~暴走するスポーツバブルの裏側~

オリンピックの理想を打ち砕いた
国家間のメダル競争

谷口源太郎 [スポーツジャーナリスト]
【第2回】 2008年7月14日
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 歌人・劇作家の寺山修司は、1972年ミュンヘン・オリンピックの芸術プログラム「オリンピックの演劇化」に劇団・天井桟敷を率いて参加した。

 このプログラムの趣旨は、「オリンピックの歴史への反省をこめて、批判的に演劇化する」ということだった。天井桟敷は、オリンピック開催に反対した400人の学生が軍によって射殺された68年メキシコ・オリンピックを題材にした野外劇を公演した。

 10日間続けられた公演が突如、IOC(国際オリンピック委員会)の指令で中止された。アラブゲリラによるイスラエル選手団宿舎襲撃事件(犠牲者は選手・役員合わせて11人)が起きたからだ。 

「オリンピックの政治利用」
寺山修司の鋭い指摘

 寺山は、その血塗られた衝撃的事件を身近に体験したことで、より一層オリンピックに対する批判を激化させた。著書「死者の書」(土曜美術社)に寺山は、批判の言葉を連ねている。

<オリンピックはいつのまにかスポーツマンの祭典ではなく、もう一つの戦争になってしまった。クーベルタンは「国家の尊厳」に殺されてしまったのだ。100mランナーの栄光も悲惨も、いまでは国家が肩代わりしてしまい、選手は国家のスタンドイン(代理人)として走っているだけにすぎなくなった。122本の国旗が掲げられたときから、オリンピックは政治的なゲームとして開始され、その歪みを引き受けて、テロを誘発するに到ったのだ。>

<この事件はドイツ問題でもなければユダヤ人問題でもない。パレスチナ問題でもない、まさに「オリンピック問題」なのだということを関係者は知らねばならない。オリンピックを政治利用しようとする者は政治の返り血を浴びたとしても当然であり、今の方式でオリンピックを継続しようとするならば、同じような事件はモントリオールでも必ず起きることになろう。>

 寺山の鋭い指摘は、その後のオリンピックで現実のものとなり、オリンピックの度に政治問題が噴出し、80年モスクワ・オリンピックと84年ロサンゼルス・オリンピックでの東西両陣営のボイコット合戦にまでエスカレートした。

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谷口源太郎 [スポーツジャーナリスト]

1938年鳥取市生まれ。講談社、文芸春秋の週刊誌記者を経て、フリーランスのスポーツジャーナリスト。スポーツを社会的視点からとらえた批評をてがける。市民の立場からメディアを研究する「メディア総合研究所」会員。フェリス女学院大学非常勤講師。著書「スポーツを殺すもの」(花伝社)、「巨人帝国崩壊」(花伝社)、「日の丸とオリンピック」(文芸春秋)など。


だれが「スポーツ」を殺すのか ~暴走するスポーツバブルの裏側~

底の浅いスポーツ報道に高騰する放映権料、エージェントの暗躍やスポンサーと協会の利害関係、そしてスポーツを利用する政治家まで。スポーツは純粋な「競技」から、完全に「ビジネス」と化した。スポーツを殺したのは一体誰なのか。暴走するスポーツバブルの裏側を検証する。

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