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遺伝子で拓ける未来の光と影
【第1回】 2015年2月13日
著者・コラム紹介バックナンバー
大西睦子

急進する遺伝子医療で出遅れる日本 
技術革新に追いつかない制度整備

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遺伝子技術の革命的な進歩は、研究レベルでなく私たちが受ける治療や病気の予防法を実際に変えるところまで来ています。遺伝子技術の発展は私たちの暮らしをどのように変えていくのか、その最前線をボストン在住の医師・大西睦子さんが紹介していきます。第1回である今回取り上げるテーマは、「遺伝子検査」です。手軽に受けられるようになってきた遺伝子検査ですが、興味本位で受けると予想しなかったリスクに直面する恐れがあるようです。

 私たちは体調不良を感じたりケガをすると、病院に行って診察をうけますよね。そして医師は、問診や検査に基づいて患者さんの症状を診断し、治療方針を判断します。ところが、こうした従来の医療が今、遺伝子技術の革命的な進歩により大きく変化しつつあります。病気になる前から、そのリスクを遺伝子等から調べて予防や治療が可能になってきたのです。

 例えば、遺伝子検査については、皆さんも耳にする機会が増えているのではないでしょうか。個人の遺伝子の情報に基づいた病気の予防や早期発見、治療が可能となってきました。

 大きな話題となったのが、2013年5月に米国ハリウッド人気女優のアンジェリーナ・ジョリーさんが、がん予防のための乳房切除術を受けたことです。アンジェリーナさんの母親は、長年にわたって乳がんと卵巣がんに苦しみ、56歳という若さで亡くなりました。さらに母親の姉も、同じ病気で61歳で亡くなったといいます。

 家族歴を鑑みて乳がんの遺伝子検査を受けた結果、乳がんや卵巣がんのリスクを高めるBRCA1という遺伝子変異が見つかりました。告白手記によれば、彼女の遺伝子変異による生涯発症リスクは乳がん87%、卵巣がん50%とのことでした。

http://www.nytimes.com/2013/05/14/opinion/my-medical-choice.html?_r=0

 そこでアンジェリーナさんは、予防のための乳房切除術を受けることを決断します。日本では、一般的にがん罹患者の治療においても乳房をできるだけ温存できるよう要望されるケースが多く、罹患予防のために乳房を全摘するという(再建術を行ったとはいえ)思い切った決断を含めて驚きをもって報じられました。

 しかし今や、こうしたがんや感染症などのリスクを知るための遺伝子検査は、多くの医療機関で行われていて手軽に受けることができます。遺伝子検査のほとんどが、少量の血液で簡単に実施できるため、検査による身体的な負担もほとんどありません。アンジェリーナさんの遺伝性乳がん卵巣がん症候群などのように予防や治療の介入が可能な病気については、臨床的にも有用とされています。

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    大西睦子

    内科医師、米国ボストン在住、医学博士。東京女子医科大学卒業後、同血液内科入局。国立がんセンター、東京大学医学部附属病院血液・腫瘍内科にて、造血幹細胞移植の臨床研究に従事。2007年4月より、ボストンのダナ・ファーバー癌研究所に留学し、ライフスタイルや食生活と病気の発生を疫学的に研究。2008年4月より2013年12月まで、ハーバード大学にて食事や遺伝子と病気に関する基礎研究に従事。著書に『カロリーゼロにだまされるな――本当は怖い人工甘味料の裏側』(ダイヤモンド社)。


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