飲料やスナックの自動販売機を運営している企業が、1月に生じたスイスフラン高で“悲劇”に見舞われた。

2月9日にトルコ・イスタンブールで行われた20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議でも、通貨安の話題が上った
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 スイスの大衆紙「ブリック」によると、セレクタ社はスイスに1万6000台の自販機を設置している。それらはスイスフランとユーロの両方で商品を買えるようになっていて、自販機の為替レートはスイス国立銀行(SNB)が2011年以来維持していた1ユーロ=1.2スイスフランだった。

 しかし、SNBはこの事実上のペッグ(くぎ付け)政策を1月15日に突然停止した。為替レートはその後10日間ほど1ユーロ=1スイスフラン前後で推移。セレクタ社は自販機のレートをすぐに変更したかったが、台数が多くて短期間で終えるのは不可能だった。

 その間に消費者は1ユーロで1.2スイスフラン分の商品を買い続けることができた。意図せざるバーゲンセールになってしまったわけだ。

 それどころか、その自販機はユーロを入れてキャンセルするとスイスフランが戻ってくる仕組みになっていた。それに気付いた消費者は、キャンセルでスイスフランを得る操作を繰り返していたそうだ。自販機がお得な両替機と化してしまったのである。

 このように、為替政策が突然変更されると経済は多方面で混乱に直面する。前掲紙は「なぜSNBは政策変更を予告できなかったのか」と批判していた。しかし、ペッグ政策の終了を当局者が事前ににおわせたら、その瞬間から為替市場ではスイスフラン買いの圧力が高まり、ペッグのレートを維持することは困難になってしまう。

 ペッグ政策は本質的に突然停止しなければならない“宿命”を抱えているといえる。