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選手の生命を守れるか?
美学と危うさの狭間で苦悩するボクシング界

――辻、小松の死亡事故、辰吉の現役続行がはらむ問題

城島 充 [スポーツライター]
【第54回】 2009年5月12日
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 亀田三兄弟をめぐる喧噪もいつのまにか消え、ボクシング界は今、新たな問題に直面している。天才ボクサーと呼ばれ、カリスマ的な人気を誇った元WBC世界バンタム級王者・辰吉丈一郎選手の現役続行問題、日本タイトルマッチでのリング禍、そして人気ボクサーの事故死…。そこにはボクシングという競技が持つ美学と危うさが複雑にからみあっている。

死亡と現役引退を招いた
タイトルマッチでの悲劇

 今年3月21日に行われた日本ミニマム級王座決定戦で敗れた辻昌建選手(帝拳)が試合後意識を失い、3日後に亡くなった。辻選手はサウスポーから繰り出す連打を武器にこつこつとランキングをあげ、30歳にしてようやくつかんだチャンスだった。

 この試合は初回から激しい打撃戦になり、辻選手が王者になった金光佑治(六島)を手数で圧倒していく。足を止めた打ち合いが続くなか、7ラウンドに金光選手が放った左アッパーで試合の流れが変わる。8回にも金光選手の猛反撃に辻選手の足がもつれ、続く9回が終わってコーナーに戻ったときは意識が朦朧とした状態だった。

 このとき、甚大なダメージを感じた辻選手の陣営のなかにはセコンドに試合を止めるように助言した者もいたというが、そのまま最終ラウンドへ。すぐ金光選手のラッシュにさらされた辻選手は赤コーナーにもたれた形でダウンをとられ、カウントアウトされた。

  彼が完全に意識を失ったのは、その直後だ。

 日本のリングでの死亡事故は10ヵ月ぶり。日本タイトルマッチにおける事故は4年ぶり、4例目になる。

 そしてこの試合に勝ってベルトを巻いた金光選手もまた、試合後の検査で硬膜下血腫が認められ、ベルトを巻いたまま引退を余儀なくされた。症状が判明してから発表に時間がかかったのは、ジム側の「少しでも長くチャンピオンでいさせてやりたい」という心情からだった。

 9ラウンド終了時点で、3人のジャッジはすべて辻選手に5-6ポイントのリードを与えていた。

 あと3分、立ってさえいれば、辻選手は栄光をつかめたのだ。

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城島 充 [スポーツライター]

1966年生まれ。産経新聞の社会部記者を経てフリーに。戦前に来日したフィリピン人ボクサーの悲哀を描いた「拳の漂流」(講談社)でミズノスポーツライター最優秀賞、咲くやこの花賞を受賞、近著に卓球界の巨星・荻村伊智朗の生涯を卓球場の女性場主の視点から描いた「ピンポンさん」(講談社)。「Number」誌などに多数のノンフィクションを発表している。


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