米国の真の危機は、目の前で激しく軋む金融システム危機ではなく、中長期的に基幹産業たる金融産業が衰退し、それに伴って潜在成長率が低下していくことにあるのではないだろうか。

 サブプライムローン問題が暴きだしたのは、30%や40%ものリターンを得られるという投資銀行とその出資者が抱き続けた野望が今や幻想に過ぎない、という事実である。とすれば、その金融産業に支えられてきた覇者米国の経済成長は、砂上の楼閣と化すのではないだろうか。

 ポールソン財務長官は、金融機関の損失拡大と実体経済とりわけ住宅市場の悪化とが負のスパイラルを起こし、金融システム不安が深刻化していることを否定しない。それどころか、巨大な金融機関が破綻しても市場に混乱をきたさないための破たん処理法制が必要だと主張してはばからない。その発言自体が金融システム不安を加速させないかと心配になるほど、率直である。

 だが、政府の第一級の要人が極めてデリケートな発言する場合、公表されていないあらゆるデータ、情報を踏まえているはずである。この場合、ポールソン長官は巨大金融機関は破綻しないと判断している、あるいは破綻させないと決断した、と解釈するのが自然であろう。
 
 実際、財務省とFRBは、PDCF(プライマリー・デイーラー・クレジット・ファシリテイ)など、投資銀行やプライマリー・デイーラーに対する緊急避難的な流動性供給制度を時限的に導入、期限が来ると延長している。当局はこの特別措置を使って、破綻回避に必要十分な流動性をいつでも供給できるのである。

 だが、金融当局は常に市場あるいは金融機関に安定と規律の両方を求める。米国政府の総力を挙げて金融システムを支えてはいるが、個々の金融機関がその姿勢に甘えてもらっては困る。モラルハザードを避けるために破たん処理はありえるのだ、とポールソン長官は警告し、増資などの自己努力に全力を挙げろと追い込んでいるのであろう。

 今回の金融危機で、FRBの権限は大幅に強化された。商業銀行だけでなく、証券業務を行う投資銀行に対する監督権を手にしたのである。流動性を供給するからには、経営内容を把握、監視(モニター)するのは、当局として当然であろう。破たん処理法制の整備も、その流れに乗っている。