激変する経営環境の中では、これまで日本企業が踏襲してきた平時のリーダーシップは通用しない。適切な「判断力」と「実行力」をもって難局を乗り越える有事のリーダーシップが必要となる――。こう語るのは、数多くの企業改革を牽引してきたアリックスパートナーズ日本共同代表の野田努氏だ。新刊『プロフェッショナル・リーダー』を上梓した野田氏に、これからのリーダー人材が備えるべきスキルについて語ってもらった。(構成:谷山宏典)

――まずは野田さんのご経歴と現在のお仕事内容についてお聞かせください。

有事に対応できる現場のリーダーが<br />日本企業に不足している野田努(Tsutomu Noda)アリックスパートナーズ マネージングディレクター、日本共同代表。慶応義塾大学経済学部卒業、ハーバード・ビジネス・スクールMBA取得。日本長期信用銀行、マッキンゼー・アンド・カンパニー、米国KPMG、ユニゾン・キャピタルを経て、2007年よりアリックスパートナーズに参画し、現在日本共同代表。同社は米国デトロイトに本社を置く、世界最大規模の企業再生専門のプロフェッショナル・ファームで、ゼネラルモーターズ等の再生で知られる。日本での主な実績として、日本航空、ライブドアホールディングスなど。初の著書『プロフェッショナル・リーダー』を今年5月に上梓。

大学卒業後の1988年に日本長期信用銀行に入行して、日本国債のディーリングやデリバティブの取引、機関投資家向けのセールスなどを担当していました。転機はやはり98年の長銀の経営破綻です。私はその1年半ほど前からロンドンに赴任しており、海外から銀行が倒れていくプロセスを見ていました。当時、経営は明らかに苦境に陥っていたにもかかわらず、日本にいる仲間たちには「まだ銀行がつぶれるはずがない」という根拠のない安心感を抱いている人も多く、危機意識が希薄なようでした。しかし、現実には破綻してしまったわけです。このときの経験は、今も私のキャリアの原点としてあります。

その後、コンサルティングの世界に入り、99年からはマッキンゼー・アンド・カンパニーで企業のクロスボーダー戦略の立案などに取り組み、2001年には米国KPMGに移って、日本企業の海外市場への参入や買収・提携戦略の立案・実行をサポートするチームを立ち上げたりしていました。05年には日本のプライベート・エクイティ・ファンドの草分けであるユニゾン・キャピタルから声をかけていただいて、同社のCFO(最高財務責任者)に。当時のPEファンドは、破綻に近い企業に対して資金を提供して、経営再建の支援をする投資を積極的に行っており、そうした仕事が私の琴線に触れたのです。