LINE(株)CEOを退任後、C Channel(株)を立ち上げた森川亮さんの初著作『シンプルに考える』の発刊を記念して、(株)ディー・エヌ・エー創業者である南場智子さんとのトークセッションが行われた。テーマは「結果を出す人の思考法~すごい人はなぜ、すごいのか?」。南場さんのベストセラー『不格好経営』『シンプルに考える』から引用した言葉をもとに語り合っていただいた。(この連載は、6月4日に東京カルチャーカルチャーで行われた対談イベントのダイジェスト版です。構成:田中裕子)

未来が不確実だからこそ、
可能性は無限大

 ――『シンプルに考える』には、「未来が不確実だからこそ、可能性は無限大と信じる」という言葉があります。私たちは未来が見えないことを恐れてしまいがちですが、そうではない、ということですよね?

森川 日本人は、先が見えないことをとにかく非難します。「未来がわからない」とか、「社長のビジョンが不透明だ」とかね。でも、そんなこと、どうだっていいんです。大切なのは、自分がどう考えるか。そして、どう行動するか。その結果として未来ができあがるんですから。

南場 そうだよね。

森川 未来が決まってないということは、なんでもできるということでしょう。そのくらいの気持ちで生きていかないと、会社がすごくても、日本がすごくても、個人としてはダメになってしまうと思うんですよね。

南場 おっしゃるとおり。でも、上場していると、IRで「将来像が見えない」と言われることも多いんですよ。正直に言ってしまえば、これだけスピードが速くなっている時代に見えるはずないんですよね。伝統的な会社だと、当たり前に五ヵ年計画とかあるでしょ。私たちの業界に、そんなのありえないじゃない。ちょっと先の未来ですらさっぱりわからないのに(笑)。

森川 そうですね。だから、いまやるべきは、足下の業績が伸びないからとコストを削って利益を出すことではありません。そんなことよりも、少しでも成長して五年後の未来をつくり出すことのほうが、ずっと大事なんです。

南場 我々にとっては、未来が見えないことはわくわくすることであって、不安ではないんだよね。

――森川さんは『シンプルに考える』で、「人生には『まっすぐな道』があると思っていた」と書かれています。森川さん自身だいぶ考え方が変わったように思いますが、きっかけは何かあったのですか?

森川 仕事が思い通りにならなかったからでしょうね。学生時代までは、極端に言えば嫌なことはしなくても生きていけるじゃないですか。でも、仕事は「イヤ」なんて言っていられない。プロとして、イヤなことでもやらないといけません。
 新卒で就職した日本テレビで、ほんとうは音楽の仕事をやりたかったのに、財務システムの開発担当に配属されたんです。やりたいことの真逆ですよ。嫌だけどがんばらないといけない日々のなか、「人生とはなにか?」「仕事とはなにか?」と考えるようになりました。あのときやりたいことをやれていたら、あまり深く考えずに大人になっていたかもしれません(笑)。

――そういう意味では、思い通りにいかないことは早めに経験したほうがいいのかもしれませんね。

森川 そうですね。LINE(株)のときは、まさにうまくいかなかったときの経験が成功の種になりましたから。僕たちはパソコン向けのオンラインゲームで成功したんですが、ガラケーが登場したときに、ガラケーに振り切ることができずに失敗した。だからこそ、スマホが登場したときにスマホに振り切ることができたんです。
 NAVERでやっていた検索事業も、グーグルにはどうしたって追いつかなかった。だから、別軸でアイデアを出してLINEが生まれた。人生もビジネスも、うまくいくときもあればいかないときもある。ただ、うまくいかないことが次の「うまくいく」につながるような生き方ができればいいな、と思うんです。そうでなければ、いまのLINEもなかったわけですから。